講演する日立製作所 代表執行役 執行役副社長の川上潤三氏
講演する日立製作所 代表執行役 執行役副社長の川上潤三氏
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 「日立の長期計画『環境ビジョン2025』に盛り込んだ目標は,2025年までに当社としてエミッション・ニュートラルを実現すること。CO2排出量に関しては2005年時と比較して年間1億トンの削減を約束する」--日立製作所の代表執行役 執行役副社長,川上潤三氏は,2008年5月29日のグリーンIT国際シンポジウムの講演でこう切り出した。

 日立が2007年に発表した「環境ビジョン2025」には2つの方向性がある。一つは同社の企業活動において環境負荷を低減すること,もうひとつは同社製品の環境適合製品の比率を高め,2025年には5000種類以上ある製品すべてを適合させることだ。「世界におけるCO2排出量は1990年以降毎年増え続けている。2025年に全排出量を半減させないことには地球の温暖化は止まらないといわれている。その量は200億トンに相当するため,1億トンは相当なものであると認識している」(川上氏)。

 日立では2005年から2006年にかけて,電力消費量を15億3000万kWh削減している。これは23万4000世帯の家庭の使用電力量に相当するという。こうした取り組みをさらに効果的なものにするため,日立グループとして2007年12月に環境経営戦略を統括する「CEnO(Chief Environmental Strategy Officer)」という職を作るとともに,2008年1月に地球環境戦略室を設立。今後,日立グループの中長期計画の取りまとめを行っていくという。

データセンターの電力消費量を半減させる

 日立の様々な取り組みの中で,大きなキーになるのがIT機器の省エネだという。経済産業省の予測では,2025年のインターネットのトラフィック量は2006年の190倍に達し,省電力化が進んだとしても現在の5倍のエネルギーが消費されるとしている。これは日本の発電量の15~20%に相当し,地球温暖化防止のためには,これまでの省エネとは次元の異なる抜本的な取り組みが必要となる。

 そのため日立では「クールセンター50」と銘打ったプロジェクトを発足させ,2007年から5年間でデータセンターの電力消費量を50%に減らす計画だ。ここではIT機器の省電力化はもちろん,空調,電源,建築物など,ITの範ちゅうにかかわらず省電力化を図っていく。「総合電機メーカーである日立だからこそ可能な取り組みだ」(川上氏)。

 メインとなるIT機器の省電力化においては,オペレーション,イクイップメント(装置),デバイスの3階層で取り組んでいく。オペレーションは仮想化技術の活用が柱となる。仮想化技術によって無駄を省き,余剰サーバーの電源を落とす。イクイップメントの中心となるのがエアコン。冷却効率の優れたものを導入するとともに,風の流れを分析,制御することで,空調だけで20%の電力消費量を削減させる。さらにデバイスであるLSIやHDDの省電力化によって,2012年には電力消費量を50%削減させるという。

 日立ではほかにも,省電力化のために様々なテーマの研究に取り組んでいる。ハードディスク・ドライブでは,メディアをドットパターン化したり,書き込み時に熱を加えることで飛躍的に記録密度を高めて小型化することで,消費電力を大幅に削減する。電源や駆動部分に関わるパワーデバイスでは炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を採用することで,サーバー用途での大幅な電力削減を見込んでいる。プロセサのマルチコア化による省電力化も進めている。現在は8コアを開発しているほか,マルチコアでの効率の良いクロック制御を行うためのコンパイラの開発で早稲田大学と共同研究をしている。

 「日立グループは,IT以外の分野でも鉄道,自動車,産業機器など多方面でエネルギー消費量削減を進めており,Cool Earthへの挑戦を続けていく」と川上氏は締めくくった。