私的録画補償金関係権利者団体で組織されるデジタル私的録画問題に関する権利者会議は2008年5月29日,「コピーワンス問題と補償金制度に関する合同記者会見」を開催した。今回の会見は,各種報道や伝聞から「今日の混乱は,文化庁提案に対し「とあるメーカー」がJEITA(電子情報技術産業協会)内部で多数派工作を行った結果であり,さらにこれまでサイレンスであった経済産業省がいきなり参加,かつ2年にわたる議論を経て出してきた文化庁の案に対して同省の理解が十分でないことからくる対応で混乱に拍車がかかったと思われる」とした上で,一部メーカーなどが懸念あると指摘していると権利者サイドに伝わっている事項に対して権利者の考えを改めて説明するとした。説明は,実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏が行った。

 権利者側は懸念されると伝わっている事項の一つとして「HDD内蔵の一体型プレーヤは汎用機器と区別がつきにくく,いずれ汎用機の指定につながる」という内容を挙げた。その上で,この事項に対しては,パソコンを制度の対象に加えないことに権利者は同意しており,これは権利者サイドの最大の譲歩だと主張した。

 「携帯型プレーヤやHDDレコーダとパソコンと一体どこがパソコンと区別がつきにくいのか。それぞれ音楽や映像を楽しむためのもの,番組録画できるといって売られているもの。これを区別がつきにくいと主張するのは理解に苦しむ」と反論する。録音や録画を行うメディアがMDやテープなどからHDDへ移行しつつあり,一体型の機器を制度の対象に加えなければ補償金の実態が生まれないと権利者サイドとして背景を説明した上で,「このことは昨年の中間整理案でも整理されている。今出てきた話であるかのように騒ぎ立てるのは,これまでの議論を無視したものであり,我々が「ちゃぶ台返し」といっている最大の理由である」とした。さらに「メディアがすぐに対象の拡大と表現するが誤りであり,むしろ対象の移行が正しい」と主張した。

 懸念されると伝わっている第2の事項として「制度が縮小していく保証がない」という事項を挙げた。これについては,「ネットの世界を補償金の対象からはずすことが,まさに制度の縮小である」と主張した。文化庁提案では「音楽CD」と「地上放送」に対する私的録音録画のみを対象とし,これも権利者の要請に基づく保護技術が施された時点で廃止と明言しており,これ以上のどのような保証が必要なのか,と訴えた。

 次にメーカーの社会的責任と補償金制度と題して,補償金制度の正当性は今日強まりこそすれ,薄れてないとまとめた上で,会見のメインテーマとして「消費者は本当にそれでいいのでしょうか」と問いかけた。現行の補償金は,消費者が負担すると言う建前はあるが,実際にはメーカー負担している実態がある。その上で,文化庁提案のように「契約と保護技術による個別課金に委ねられるとすれば,正真正銘の消費者が負担するという構造が生まれる」とし,さらに「メーカーが負担サイクルから未来永劫開放されるだけのこと,という事実関係に消費者は気づいてないように思われる。メーカーがコンテンツに関する負担から外れて手放しで利益を上げていく一方で,消費者のみが負担するという状況を実現することになるが,消費者は本当にそれを望んでいることなのか」と指摘した。

 なお今後補償金制度から外れていく部分について,「メーカーがデジタルコンテンツ関連機器であげていく利益が今後ノーケアであってよいのか,今後検討すべき重要な案件と考えている。メーカーがあくまでも協力的な姿勢を持たない以上,我々はそれに対抗する方法論や制度について今後も考え続けていかなければいけない」と述べた。

 ダビング10については,そもそも問題の発端が「ムーブの失敗よりHDD上のコンテンツが消滅するなどメーカーの落ち度にあったもので権利者には何の関わりもないこと」などとした上で,「情報通信審議会の第4次中間答申に権利者への対価の還元を前提にしたものであり,このときメーカーなどは何の異議も申し立てていない」と指摘した。その上で「我々はダビング10を人質になどしていない。権利者にとってダビング10の問題は明らかにメーカーの不始末の尻拭いとしての性格を持つ」と主張した。「メーカーなどは権利者に尻拭いをさせておいて,ここに来てまたしてもメーカーの都合によって放埓な主張を繰り返して第4次答申の実現を危うくしている。そのことの一体どこに権利者の身勝手があるのか」と述べた。

 日本音楽著作権協会(JASRAC)の菅原瑞夫常務理事は,2008年5月28日に発表されたJEITAによる意識調査(発表資料1発表資料2)に触れた。「携帯型音楽プレーヤに補償金はかけるべきではないといしているが,前提はレンタルCDや購入CDの支払い金額に私的録音録画の対価が含まれていることになっている。この議論は,文化庁の小委員会ではっきりと説明されており,含まれていない。つまりこの調査結果は,含まれていないのであれば,どうなのかとも読める。一方,テレビ放送のコピー制限下で録画についての補償金は不要としているが,この調査でレコーダの利用の実態はほとんはタイムシフトであることが明らかになっている。ということは機械上の問題がなければ多くのユーザーにとってコピーワンスでよかった話だったことがわかる。ダビング10でユーザーの利用の可能性が広がった。当然そうなると,そこに対する補償をどう考えるかということになる」とし,今回インターネットで掲示されている内容だけで言えば大変いい調査だと述べた。

 質疑応答の中で,日本映画製作者連盟の華頂尚隆氏は「ピーワンスであれば補償金はいらないといったことはない。複製ができるので,補償金の対象だと今でも思っている」と述べた。文化庁提案で「本小委員会において制度の見直しの合意が得られた場合にはコピーワンスは厳しい制限に該当すると合意すべき」となっていたがそれをひっくり返すのかという記者からの質問に対しては,「それは違う。今はまだ合意がとれていない段階だ。文化庁提案のコンセンサスがとれた後に,コピーワンスは厳しいDRMなので補償金の対象にならないという提案があれば真摯に検討する余地はある」と述べた。