写真1●PHSの基地局を数多く設置してきたウィルコム
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写真2●実験装置による次世代PHSの伝送シミュレーション
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写真3●次世代PHSの利用をイメージした端末模型
写真3●次世代PHSの利用をイメージした端末模型
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 ウィルコムは2008年5月27日~28日,同社の技術や新製品の展示会「WILLCOM FORUM & EXPO 2008」を開催した。28日には開発本部長の近義起副社長が基調講演に登壇し,2009年のサービス開始を予定している次世代PHS「WILLCOM CORE」や関連技術について説明した。

 近氏はまず,携帯電話とADSLやFTTHなどブロードバンド回線ではデータ量に1000倍もの差があるという統計結果を示した。携帯電話のユーザーがメールなどで1カ月に利用するデータ量は10Mバイトであるのに対し,ブロードバンド回線では10Gバイトに達するという。携帯電話の無線通信でも,今後はブロードバンド回線並みの伝送速度が求められるが,「無線通信には物理的な障壁がある」(近氏)。

 無線通信の伝送速度は,シャノンの法則という計算式によって,通信に使う周波数帯域とシグナル・ノイズ比で決まる。まず,利用できる帯域は限られているため,帯域を広げる方法には限界がある。そうなれば,技術改良によってシグナル・ノイズ比を向上させるしかないが,「MIMO(multi-input multi-output)などの技術を使っても1000倍は不可能。せいぜい10倍程度にとどまる」(近氏)。

 次世代PHS,WiMAX,LTE(long term evolution)も,通信に使う技術はOFDM(直交周波数分割多重)およびMIMOと共通しており,技術革新による伝送速度向上も先が見えてきた。そこで,今後の無線通信の優位性はいかに安定して接続できるかが注目されると近氏は指摘する。その点,PHSは携帯電話やWiMAXと比べて,1つの基地局でカバーする範囲が狭いマイクロセル方式を採用しているため,「セル内に入るユーザー数が少なくなり,実効速度が出やすい」(近氏)という。

 同社は,都心部では地図を埋め尽くすように数多くの基地局を設置済み(写真1)。全国の基地局は16万以上,人口カバー率は99.3%である。これだけ多くの基地局が密集していても,集合住宅などでも問題なく使えるように設計したコードレス電話の技術をベースとしたPHSはマイクロセルを前提に設計されており,基地局間の電波干渉がほとんど起こらないという。

 同社では,さまざまな機器メーカーの参入を促すため,W-SIMカードなど技術のオープン化を進めてきたが,次世代PHSでも同様の戦略を採る。また将来は,電波をソフトウエアで処理するソフトウエア無線に対応する。「W-SIMという規格に賛同し,GSMやCDMAなどのW-SIMモジュールを開発しているメーカーもある」(近氏)と,次世代PHSだけでなく携帯電話の通信機能を備えたW-SIMカードが近く登場することも示唆した。

 展示会場では,次世代PHSの試験装置を使って約20Mビット/秒の伝送シミュレーションのデモ実演(写真2)や,次世代PHSの利用をイメージした端末の実物大模型(写真3)などを見せていた。