東京証券取引所 IT開発部売買システム部長 広瀬雅行氏
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東京証券取引所のシステム構成
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 「Linuxはミッションクリティカル分野に十分適用可能」---東京証券取引所 IT開発部売買システム部長 広瀬雅行氏は2008年5月27日,IPAX2008の講演で,派生売買システムに採用し,株式売買システムへの適用を決定しているLinuxをこう評価した。

 IPAX2008は独立行政法人 情報処理推進機構が主催するイベント。東京証券取引所は2008年1月,先物・オプション取引など金融派生商品(デリバティブ)の売買を担う新システム「新派生売買システム」をカットオーバーした(関連記事)。2009年には最大のシステムである株式売買システムをLinuxで構築,運用を開始する。

 東証が派生システムのリプレースを行った理由は3つ。ひとつにはレガシー・システムのアプリケーションの保守性,拡張性の限界の問題があった。旧システムは80年代に開発されたシステムでPL/Iで記述されていた。またベースのアプリケーションはシングル・プロセッサによる動作制約があり,マルチプロセッサによる性能拡張ができなかったこと,またメモリー空間の拡張性など,処理性能の向上に限界があったことがあった。

 次に,メインフレームのシェアが世界的に低下しており,日本でも欧米並みにメインフレームのシェアが低下していたことがある。

 そして3番目の理由が維持・管理コストの低減だった。

 派生売買システムを検討していた当初は,Linuxは想定しておらず,メインフレームかUNIXを意図していた。にもかかわらずLinuxを採用したのは,以下の理由による。

 まず「コスト低減を最も充足した提案だった」(広瀬氏)。

 次に「信頼性,可用性,冗長性の面で最もバランスが取れていた」(広瀬氏)。OSトラブル時のダンプ出力機能,障害一括情報採取機能,メモリー・チップセットなどの冗長化など,メインフレーム並みのRAS(Reliability, Availability, Serviceability)機能があった。

 そして「inuxディストリビュータを含めたサポート体制など,全社的な協力体制が充実していた」(広瀬氏)ことがあった。

 稼動後の評価は「Linuxのミッションクリティカル分野での適用は十分可能」というものだ。「メインフレーム並みの高可用性,マルチプロセッサでのパフォーマンスとスケーラビリティの確保は可能。メインフレームに比較してトータル・コストの低減を実現できた」(広瀬氏)。

 今後の改善点としては,運用管理や通信制御などのミドルウエアなどの成熟度の向上,性能評価ツールなどのユーティリティやテープ装置などの周辺機器のサポート体制の充実,SEの業務アプリ開発経験の蓄積があげられる」と広瀬氏は指摘した。

 なお,派生システムは2008年2月にトラブルが発生している。1銘柄の売買が半日停止したというものだ(関連記事)。原因はサーバー内のメモリーの初期化エラーであり,Linuxの採用はこのトラブルに無関係という。