写真●住友電工情報システム部セキュリティ技術グループ 大釜秀作主席
写真●住友電工情報システム部セキュリティ技術グループ 大釜秀作主席
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 住友電工は5月からオープンソースのオフィス・ソフト「OpenOffice.org」(OpenOffice)の導入を開始した。単独売上高が1兆円を超える大企業が、全社レベルでOpenOfficeの導入に乗り出す例は少ない。同社情報システム部セキュリティ技術グループ主席の大釜秀作氏に導入の経緯や狙いを聞いた。 (聞き手は白井 良=日経コンピュータ)

OpenOffice導入に至った背景を教えてほしい。

 まず、誤解がないようにしておきたいが、マイクロソフトの「Microsoft Office」(MS Office)の利用を止めるわけではない。システム部門として利用部門に推奨するオフィス・ソフトとして、OpenOfficeを追加したという位置付けだ。現在はMS Office、OpenOfficeともに推奨ソフトで、導入の優先度は同程度だ。どちらを導入するのかは利用部門の判断に任せている。

 OpenOffice導入は、政府調達に関連する部門と工場を想定している。政府調達では「複数のオフィス・ソフトで利用できるオープンな標準に準拠すること」という方針が示されている。OpenOfficeの「ODF」(Open Documet Format)はこれを満たす。我々の取引先には、政府調達に応札する立場の建設会社や通信事業者が多い。OpenOfficeの導入で、そうした取引先からODFファイルを送られても対応できる体制を作る。すでにODFファイルを送ってくる企業・組織もあるからだ。

 工場については改善活動への利用を期待している。工場は事務作業が少ないため、ライセンス費のかかるオフィス・ソフトを導入してこなかった。OpenOfficeならばライセンス費なしで導入できる。工場でオフィス・ソフトを利用できるようにして、業務環境の底上げや暗黙知の文書化などに取り組める環境を作る。

具体的にはどう導入していくのか。

 社内向けのWebサイトから、当社仕様にカスタマイズしたOpenOfficeのインストーラをダウンロードできるようにした。利用したいエンドユーザーは、ここからインストールする。ただ、エンドユーザーに利用を強制するつもりはない。

 新規導入するパソコンでは、OpenOfficeをインストールしてから利用部門に配布する。年間500~600台を更新しており、このうちMS Officeの利用を希望しなかったユーザーがOpenOfficeを使うことになる。

 当面、OpenOfficeを利用するのは、OpenOfficeが明確に必要な部門と新規導入パソコンの一部ユーザーに限られる。我々が管理するパソコンは1万5000台あるが、この大部分のオフィス・ソフトが急に入れ替わるというわけではない。

 ただ、グループ企業のうち、コスト削減に熱心な企業は全面入れ替えを検討するところもある。例えば光ファイバの製造会社である清原住電からは、全面入れ替えの問い合わせを受けている。

OpenOfficeを採用しても問題ないと判断した決め手は。

 レイアウトを崩さずにMS Officeの文章を開けるようになってきたことだ。実は当社でのOpenOfficeの導入検討は長い。そもそものきっかけは、以前にLinuxデスクトップの導入を検討したことだった。業務システムのネットワーク化が進み、パソコンのローカルで処理する業務が減ってきている。低スペックのハードウエアとオープンソースのOSで、パソコンを安価に購入したいという狙いがあった。

 とはいえ、オフィス・ソフトは必要になる。そこでOpenOfficeの検討を続けてきた。初期のOpenOfficeでMS Officeの文章を開くとレイアウト崩れがしばしば起きた。しかしバージョン2.3.1や2.4当たりから、レイアウト崩れがほとんど起こらなくなった。この段階で「企業でも十分導入できる」という判断に傾いた。

 ただ、もともと検討していたLinuxデスクトップは依然として時期尚早と見ている。アプリケーション間の連携が悪く、GUI環境の「X Window System」の処理も重い。オープンソースを売りにするIT系企業ならともかく、電線メーカーの我々が導入するような段階にはない。