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 2008年5月21日,「集合知」をテーマにした討論会「群衆の叡智サミット(WOCS)2008Spring」が開催された。Webサービスやオープンソース・ソフトウエア,大企業での取り組みについて報告や討論が行われた。

 はてな CTOの伊藤直也氏は,同氏が開発した「はてなブックマーク」を紹介。ユーザーが関心を持ったサイトを登録して共有するはてなブックマークは現在,登録ユーザー15万6000人で,月間300万ユニークユーザーが閲覧。2480万ブックマーク,861万エントリーが登録されている,日本最大のブックマーク・サービスだ。「現在,統計手法の改良に取り組んでいる」(はてな 伊藤氏)。

 プレディクション 谷川正剛氏は同社が運営するユーザー参加型未来予想サイト「Prediction」を紹介した。Predictionは予測市場と呼ばれる,未来の状況を株式や賭けに見立てて予測を競うことで,未来を予想するサイトである。

 日本OSS推進フォーラム ステアリング・コミッティ座長 日立製作所 鈴木友峰氏は,Linuxカーネルの開発に,企業間の協力が大きな役割を果たしていることを紹介した。ミラクル・リナックス CTOの吉岡弘隆氏は「40年前,IBMがOSの開発で大火傷を負い,その半生からソフトウエア・エンジニアリングが生まれ,多くの専門家が投入された。しかし40年何も目覚ましい成果は生まれなかった。しかしLinus Torbaldsという大学院生がソースコードをインターネットに公開したら,誰も管理しないにもかかわらず,世界中のプログラマが集まり,優れたソフトウエアを生み出した。「みんなの意見は案外正しい」(ジェームズ・スロウィッキー著,小高尚子訳,角川書店刊)という書籍で定義されている『群衆の叡智』とは,専門家でない人々が集まって専門家よりも正しい結論を生み出すというもの。ソフトウエアの世界ではそれがすでに現実のものになっている」と指摘した。

 WASP 代表取締役 生越昌己氏は「実はオープンソース・ソフトウエアは『まぐれ』の連鎖」と表現する。「成功するオープンソース・ソフトウエアは稀で,多くのプロジェクトが消えている。大きな母集団から『まぐれ』をつなぎ合わせることでうまく行っているように見えている」(生越氏)。

 駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部 准教授 山口浩氏は「オープンソースがすべての場合に最適なわけではない。かつて共有地などの共有財産を個人所有にしていく動きがあった。それは個人所有のほうが経済効率が高かったからだ。現在の情報技術の発展は,共有財のほうが経済効率が高い環境をもたらしているのかもしれない。しかしすべてがオープンソースになるわけではなく,バランスが求められるだろう」と話した。

 IBMビジネスコンサルティングサービスの伊藤久美氏は,IBMが行った,衆知を集め活用する取り組みを紹介した。Innovation JamはIBMが世界規模で開催したイノベーションに関するオンライン・ブレインストーミングである。IBM社員とその家族,顧客,大学など104カ国から15万人が参加。4万6000件以上のアイデアから10個のプロジェクトを抽出した(関連記事)。

 IoFT(Impact on Future Tech)未来学者に何がキーワードになるか聞き,そのサインポストがどのように動くのかデータマイニングを行うというものだ。「9割は頭絵の結論だが,1割にA-ha!というトピックがある」(IBM BCS 伊藤氏)。すでにこの手法による分析をマレーシアの政府に提供したという。「IBMは群衆の叡智をビジネスに組み込んでいる」とIBM BCS 伊藤氏は話す。

 NEC 企業ソリューション企画本部兼サービスプラットフォーム研究所 福岡秀幸氏は,NEC社内のSNS「イノベーションカフェ」を紹介した。「消費者が創造するメディアCGM(Cosumer Generated Media)にならって,社員が創造するメディアEGM(Employee Generated Media)と呼びたい」(福岡氏)。ITによるコラボレーションの促進を行う団体enNetforumは,社内ブログやSNSに関する検討を行うワーキンググループ「EGM-WG」を設置している。NTTデータやジョンソン&ジョンソンなど大企業10社が参加している。