文化庁の文化審議会著作権分科会の「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」は2008年5月16日に,2008年度第3回会合を開催した。今回の会合では,権利者不明の場合の利用円滑化について,議論が集中した。

 今回の会合では,小委員会の事務局を務める文化庁長官官房著作権課が中間総括案を提示した。この中で,権利者不明の場合の利用円滑化策の具体的な制度設計のイメージとして,二つの案が盛り込まれた。第1案は,権利者の捜索について相当の努力を払っても,権利者に連絡できない場合には,「著作物を利用できることにする」というものだ。第2案は,上記のような事態が発生した場合,「第三者機関に使用料相当額を支払えば,事後の権利追及に対して免責を受けることができるようにする」というものである。ただし相当な努力を払ったことについての立証責任は利用者側が負う。

 相当な努力を払っても権利者の連絡が取れない際に,利用許諾を受けずに著作物を利用できるようにする案については,文芸関係の権利者団体の委員が,「(利用円滑策は)シンプルなほうが望ましい」としたうえで,「(後から著作物の権利を持っていることが判明した際に)権利者が使用料を徴収できるようにするための保険制度は必要だが,こうした制度は非常に有意義」と評価した。一方で,ほかの委員からは,著作物が容易に利用できるようになるため,「権利の乱用を招く」(レコード関係の権利者団体の関係者)という意見が出た。

 第三者機関への使用料相当額の支払いを条件に,事後の権利追及に対して免責を受けることができるようにする案については,効果を疑問視する意見を一部の委員が出した。写真関係の権利者団体の委員は,「日本では資金的な面から個人が裁判に対応するのは難しい。リスクを背負って,著作物を利用するという人は出ないのではないか」と発言した。さらに「第三者機関に必要な資金を誰が提供するのか」という意見も出た。

 小委員会の事務局を務める文化庁長官官房著作権課が提示した中間総括案の骨子は,権利者不明の場合の利用円滑化のほかに,(1)多数権利者がかかわる場合の利用の円滑化について,(2)時代の文化の土台となるアーカイブの円滑化について――の3点が示された。ただし,この2点については今後の議論の方向性を示すにとどまっており,検討の本格化は中間報告のあとになりそうだ。