地上デジタル放送のコピー制限を緩和する、いわゆる「ダビング10」の開始延期が事実上決定した。2008年5月13日に開催された情報通信審議会 情報通信政策部会 デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会において、複数の委員が延期やむなしとの見解を示し、大筋で了承された。新たな開始日は決まっておらず、当初6月2日としていたダビング10の実施日は白紙に戻り、文化審議会における私的録音録画補償制度の見直し論議が決着するまで、事実上棚上げになりそうだ。

 地上デジタル放送のコピー制限をめぐっては、HDDレコーダーなどに録画した後、再度の複製を認めず、DVDなどへのムーブのみ認める、いわゆる「コピーワンス」で運用が続けられている。これに対し、ムーブの失敗により元のデータが消失するなど、ユーザーの不利益が大きいとして、同委員会で見直しが行われていた。その後、2007年7月12日の同委員会で、コピーを9回まで認める「ダビング10」に緩和することでいったん合意した。だが著作権団体らは、コピーワンスからダビング10へ緩和する条件として、私的録音録画補償金制度の維持を要求。これにメーカー側は難色を示しており、結果的に両者の間で合意が形成されなかった。

 この日の会合でメーカー側の委員からは、「6月2日まで3週間を切っており、ダビング10の開始に向けた準備や周知などを勘案すると、デッドラインは本日である。皆さんのご理解を得て、本日中に確定したい」(電子情報技術産業協会の田胡修一委員)と発言、6月2日という実施日の延期はすべきでないとの考えを示した。一方、権利者側は「ダビング10の策定に参加した一員として、実施に向けたコンセンサス作りに協力したいと思っている」(実演家著作隣接権センターの椎名和夫委員)とコメントし、あくまで合意形成が図れない限りダビング10の実施はできないとの立場を示した。放送業界側からも、デジタル放送推進協会(Dpa)の関祥行委員が、「Dpaでは合意形成をいただいた上で、なるべく早期に実現したいと思っている」と表明し、合意が得られない限りダビング10への移行をしない姿勢を明確にした。

 議論の取りまとめ役である委員たちからも、現段階では6月2日のダビング10実施は難しいとの考えが示された。ダビング10の実施に向け、同委員会の分科会である「フォローアップワーキンググループ」で最終調整を取り仕切っている、慶応義塾大学の中村伊知哉委員は、「地デジのコピー制御の話は本来民間ベースの話であり、メーカー側でダビング10を強行することも可能だ。しかしこの委員会では、2年半の議論を経て、コンセンサスを得て進めていこうということになった。ダビング10の実施も、コンセンサスを実現するための努力を具体的に見せるか、さもなくば行政が解決を図るしかないのではないか」とコメント。

 最終的には、同委員会の主査を務める慶応義塾大学の村井純委員が「ラフコンセンサスでも先に進めるという手法もあるが、現在9合目までたどり着いた議論で、残り1合上がるための議論を、引き続きフォローアップワーキンググループでやっていただきたい。当初6月2日とした背景には、北京五輪というデジタル放送の普及のチャンスを使おうということがあったと思うが、スケジュールの微調整をしていきたいと考えている」として、延期やむなしとの考えを示した。

 なお、消費者側の委員は、「6月2日という実施日の決定に消費者側として関与していないので、賛否について申し上げる立場にない」(生活経済ジャーナリストの高橋伸子委員)、「フォローアップワーキンググループに参加していない立場としては、6月2日が良いのかどうか判断基準がない」(東京都地域婦人団体連盟の長田三紀委員)として、態度を留保している。

 今後の焦点は、私的録音録画補償制度をめぐる文化審議会の議論の行方になる。とはいえ、5月8日に開かれた文化審議会 著作権分科会 私的録音録画小委員会の会合では、私的録音録画補償金の継続と対象機器の拡大を盛り込んだ文化庁案にメーカー側、ユーザー側の委員が強く反発しており、合意できるかどうかは不透明。文化庁では7~8月までの大筋決着を目指しているが、8月8日の北京五輪開幕までに双方が歩み寄り、改めてダビング10の開始日を定め実施するのは困難な情勢となっている。