報道によると,米Microsoftは,性能を絞ることで低コスト化する新たなタイプのパソコン「超低価格パソコン(ULCPC:Ultra-Low-Cost PC)」用として,旧OS「Windows XP」のパソコン・メーカー向け価格を値下げした。ただし,ここには一つ落とし穴がある。パソコン・メーカーがULCPCにWindows XPを搭載するには,より高機能な新OS「Windows Vista」の動く売れ筋ノート・パソコンと競合することを避けるため,ULCPCの機能制限に合意しなければならないのだ(関連記事:パソコンが変わる---「ULCPC」はパラダイムシフトを象徴する新ジャンルPC)。

 Microsoftのこうした行動を問題視させようとする動きは多いが,パソコン・メーカーは低価格モバイル・コンピューティング機器という新たなパソコン分野の登場で利益喪失を懸念し,この契約条件を強く支持している。ULCPCの機能を抑えれば,パソコン・メーカーは新興国でULCPCを販売しつつ,先進国で利幅の大きいより高機能なパソコンを売り続けることができる。

 現在のところ,ULCPCを提供しているパソコン・メーカーは,無料で使えるオープンソースOSのLinuxを採用しているところが多い。Microsoftの主力OSであるWindows Vistaは,動作に多くのメモリーや高速なプロセサを必要とするうえ価格が高すぎるので,ULCPCが対象とする新たなローエンド市場には向かない。そこでMicrosoftは妥協し,ある条件を満たすULCPCに搭載する場合に限り,旧OSとなった「Windows XP Home Edition」のパソコン・メーカー向け割引販売を2010年まで続けることにしたのだ(関連記事:Windows XP Homeの販売期間,超低価格パソコン向けに再延長)。一方,発売から7年弱となるWindows XPの通常販売は2008年6月30日で打ち切る(関連記事:Microsoft CEOのBallmer氏,「Windows XP」の延長販売とYahoo!買収失敗後に言及)。

 MicrosoftがULCPC向けWindows XP Homeの販売に設定した条件はこうだ。画面サイズは10.2インチ以下,メモリー容量は1Gバイト以下,プロセサは米Intelが先ごろ提供を開始した「Atom」など特定の低速シングルコア製品に限っている(関連記事:【IDF上海2008】インテルが「Atom」を正式発表,松下やクラリオンが小型マシン展示)。記憶容量80Gバイト以下のハードディスク(編集注:SSDの場合は16Gバイト以下) は搭載できるが,タッチスクリーン(タッチパネル機能付きのディスプレイ)は許されない。この仕様を守れば,パソコン・メーカーは販売するULCPC 1台当たり約32ドル,発展途上国向けなら1台当たり26ドルでWindows XP Homeを購入できる。

 パソコン業界の予想に反して,ULCPCは人気を博した。しかし,近い将来に市場の大勢を占める状況になるとは考えられていない。ULCPCの販売台数について,2007年は50万台にとどまったが,2008年は900万~1400万台に増えると予測されている(関連記事:超低価格ノートPCは教育用途で成功するが大ヒットは見込めない,IDCが予測)。なお,パソコン・メーカーが2007年に販売したパソコンの台数は2億5000万台を超えており,2008年はこれを上回るだろう。

■変更履歴
販売に設定した条件に,編集注として「SSDの場合は16Gバイト以下」を追加しました。[2008/05/13 19:10]