ソニーは2008年5月9日,全国の映画館にミュージカルやスポーツ・イベントの映像を配給する「Livespire(ライブスパイア)」事業を始めることを発表した。
Livespireの狙いは,映画館のデジタル化を推進することにある。現在,撮影から編集,流通,上映に至る映画のフルデジタルが進行中だが,「予想よりも映画館のデジタル化の進展が遅い」(ソニー)状況にある。上映のデジタル化による売上の増加が見込めないことが,映画館のデジタル化投資を鈍らせている。全国にある3221スクリーンのうち,デジタル化されているものは3%程度の102スクリーンにとどまっている。ソニーは,3割程度までデジタル・スクリーンを増やしたいとする。
ソニーは,Livespire事業によりデジタル・コンテンツの多様化を進めることで,映画館の興行収入の増加を見込む。国内の年間映画興行収入は約2000億円規模だが,Livespire のような「非シネマ映像」の興行で5~10%程度上乗せできるとソニーでは見込んでいる。さらに,コンテンツ提供者側には,劇場や競技場に足を運べない人の取り込みによるファン層の拡大,デジタル化した映像のパッケージでの販売など販売チャネルの多様化が見込めるとした。
今回の取り組みは,実験的な側面が多い。上映をイベント開催と同じにするか別日程にするか,入場料の水準は映画と同等にするかオリジナルのイベントに準じるか,撮影や編集にかける費用はどれくらいが適切か――。いずれも,ソニーがコンテンツ提供者の条件や希望を考慮しながら進めていく。例えば,スポーツ・イベントやコンサートをライブ中継したい場合は,高品質のネットワーク経由でリアルタイム中継することになるし,過去の舞台映像を編集して上映する場合にはリアルタイム性は求められないため,ネットワーク経由でもパッケージによる配信でも構わない。
第一弾のサービスは,音楽座ミュージカル「メトロに乗って」で,5月10日から東急レクリエーションが運営する「109シネマズ」で上映する。第二段は,アミューズとネルケプランニングによる舞台「FROGS~フロッグス」で,6月から関東近郊で,その後全国の映画館で上映する予定。
音楽座ミュージカルの運営母体であるヒューマンデザイン取締役の石川聖子チーフプロデューサーは,「作品の出来は,いい意味で予想を裏切った。大画面の映像には迫力がある。これからは,映像化を意識した作品作りに取り組みことになるだろう」とデジタル化への期待を語った。