独SAPのヘニング・カガーマンCEO
独SAPのヘニング・カガーマンCEO
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 「SOA(サービス指向アーキテクチャ)に基づいたシステムを利用すれば、ビジネスに立ちはだかるさまざまな“壁”を乗り越えることができる。これから我々はそのための手段を提供していく」。独SAPのヘニング・カガーマンCEO(最高経営責任者)は2008年5月6日(米国時間)、年次カンファレンス「SAPPHIRE 08 Orlando」の基調講演でこう宣言した(写真)。ビジネスの壁を乗り越えるキーワードとして、同氏は「効率性」「インサイト(洞察)」「柔軟性」の3つを挙げた。

 カガーマンCEOは例年、基調講演でSOAの重要性を強調してきた。今回の講演では、SOAの重要性を訴える時代は終わったと指摘。「SOAに基づいたシステムを構築するために必要な製品はそろった」として、SOAに基づいたシステムの活用方法を提示した。

 効率性について、カガーマンCEOは「ビジネス・ネットワーク全体で効率を上げることを指す。1社の効率性を向上するだけでは、ビジネスで競争優位は築けない」と説明する。競争優位につながる効率性を実現するのが、09年にも投入を予定している新製品「Process Extensions(PE)」だ。

 PEはERP(統合基幹業務システム)パッケージや、CRM(顧客情報管理)ソフト、SCM(サプライチェーン管理)ソフトといった同社のパッケージ・ソフトの機能を補完する役割を果たす。具体的には、新機能を持ったサービス群とミドルウエア群「SAP NetWeaver 7.1」で構成する。詳細は明らかにしていないが、従来通りサーバーにインストールする形式で提供するだけでなく、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)として提供する可能性もある。

 PEを利用して実現するアプリケーションの例として、カガーマンCEOは「コラボレーション・サプライヤ・マネジメント」を挙げた。製品を調達する際に、調達先の情報をリアルタイムに取得し、価格や在庫量の条件などを加味してリアルタイムに製品を選択可能にする。現状の独SAPが出荷するSRM(サプライヤ関係管理)ソフトでは、調達先までをリアルタイムで管理することはできないという。

 2つめのインサイトを実現するのが、07年に買収したBI(ビジネス・インテリジェンス)ソフト大手の仏ビジネスオブジェクツ(BO)の製品と融合だ。カガーマンCEOは「企業全体の俊敏性を上げるには、意思決定の速度向上が不可欠。そのためには、1つのデータを企業の異なる立場の担当者が自由自在に活用できなければならない。特に重要なのはSAP製品をふだん利用していないエンドユーザーだ」と説明。「企業内のあらゆる担当者に業務に合わせた形で、しかもリアルタイムで、Excelよりも簡単に必要なデータを分析できる環境を提供できる製品がすでにある」と自信を見せた。

 基調講演では、SAP製品のクライアントからBOのレポート作成ソフト「Crystal Reports」を利用できるデモを披露。基幹系のデータを利用したシミュレーションをリアルタイムに実施する、ドラッグ・アンド・ドロップ操作で帳票を作成するといった作業を実演した。

 もう1つの柔軟性を実現するために、SAPはBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)の新製品「NetWeaver BPM」を提供する。ビジネス・プロセスの記述言語「BPMN(ビジネス・プロセス・モデリング・ノーテーション)」を採用。プロセスの流れや呼び出すサービスを指定することで、ビジネス・プロセスに沿って処理を進めるアプリケーションを作成できる。カガーマンCEOは「ビジネス・プロセスを実行する際には、予期せぬ作業が途中で発生する場合がある。従来のシステムでは、こうした事態に対応できない場合が多い。NetWeaver BPMはこのような企業の悩みを解決する製品だ」と主張した。