写真●富士市役所の深澤安伸氏
写真●富士市役所の深澤安伸氏
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 「シンクライアントで本当に大丈夫かとよく聞かれるが,大丈夫だ。これまで6年間使ってきたが,今後も使い続ける」。静岡県富士市役所の深澤安伸氏(総務部 情報政策課 システム開発担当 主査)は,4月25日に東京都内で開催された「仮想化フォーラム2008」で,2008年1月に導入した新しいシンクライアント・システムについて,こう説明した(写真)。

 深澤氏は,シンクライアント・サーバー上で稼働するアプリケーションをクライアントの端末から利用することを「アプリケーションの仮想化」と定義。講演の冒頭ではまず,システムの利用を引っ越しに例え,シンクライアントのメリットを強調した。「一つの住まいに長く済むと建物が傷み,持ち物も増えるため,引っ越しが大変になる。OAシステムも,長く使うとシステムが不安定になり,新システムへの移行が大変だ。シンクライアント・システムを使ってアプリケーションを仮想化することで,いつまでもきれいなままのシステムを安定して利用できる」(深澤氏)。

 富士市はこれまで6年間,シトリックス・システムズ・ジャパンが提供する「Citrix Presentation Server(現Citrix XenApp)」を使って,端末数約1500台のシンクライアント・システムを構築,活用してきた。このシステムのリース更新を機に,システムの構成を見直した。「従来のシステムでも十分管理工数を削減できたが,新システムでは,もっと管理を楽にするために,新しい仕組みを採用した」(深澤氏)。

 新システムのポイントは,クライアントのOS部分とOfficeなどの共通アプリケーションを稼働するためのデスクトップ用シンクライアント・サーバー(64台)と,土木設計計算など特定のアプリケーションを稼働するためのシンクライアント・サーバー(19台)を分離したこと。それぞれ,Citrix Presentation Serverを使って,2階層のシンクライアント・システムを構築した。「アプリケーションを独立させることで,サーバーを安定して稼働できるようになった」(深澤氏)という。

 また,新たに「Citrix Provisioning Server for Datacenters」を採用することで,管理工数の削減を図った。富士市では,デスクトップ用のシンクライアント・サーバーとアプリケーション用のシンクライアント・サーバーのイメージをProvisioning Serverが各サーバーに配信して起動する仕組みを構築。「毎朝クリーンなOSで起動するので安定稼働ができる。2台のサーバー・イメージだけを管理すればよいので,保守も格段に楽になる」(深澤氏)。

 新システムにかかるコストは,5年リースで計算すると,サーバー,クライアント,保守コストを合わせて端末1台当たり月額9904円。従来のシステムで約1万2000円かかっていたのに比べ,コスト削減も実現できた。

 深澤氏は,シンクライアントを利用することの課題にも言及。一つは,Windowsの移動ユーザープロファイルの取り扱いに工夫が必要なこと。デスクトップ用とアプリケーション用のサーバーに2度ログオンする構成なので,レジストリの差分をロードするなどの仕組みが必要になる。

 障害発生時の障害原因の特定や,Officeの文書ファイルの互換性問題も,解決すべき課題だという。また,ネットワークの障害時や,シンクライアント・システムで稼働しないアプリケーションを利用する場合は,別に用意したシンクライアントではないPCを利用する必要がある。

 富士市は今後に向け,ICカードを活用した出退勤管理やログオン認証,自宅や出張先からのシステム利用といった機能拡張を検討している。また,仮想化ソフトの「Citrix XenServer」や「Citrix XenDesktop」を使って,ハードウエアの仮想化を実現することも視野に入れている。深澤氏は「アプリケーションの仮想化とハードの仮想化を組み合わせることで,さらなる管理負荷の低減が実現できるはずだ」としめくくった。