写真1●ティム・オライリー氏
写真1●ティム・オライリー氏
[画像のクリックで拡大表示]
写真2●Webサイト「Wesabe」。銀行やクレジットカードの手数料を節約するための知恵を、会員登録した利用者同士が持ち寄って共有する
写真2●Webサイト「Wesabe」。銀行やクレジットカードの手数料を節約するための知恵を、会員登録した利用者同士が持ち寄って共有する
[画像のクリックで拡大表示]

 「Web 2.0によるグローバルな変化はまだ始まったばかり。インターネットは真の意味でプラットフォームとなりつつあり、すべてのデバイスがつながるようになる。劇的な変化が待っている」。米国サンフランシスコで開催中のWeb 2.0 Expoで基調講演に立ったティム・オライリー氏(写真1)は、こう切り出した。

 Web 2.0を提唱したことで知られるオライリー氏は、「今まさに始まりつつある3つの大きな変化」として、Web 2.0の企業への浸透、クラウド・コンピューティングの普及、モバイルによるWeb 2.0を挙げた。

 「当初は一般消費者向けのインターネット・サービスで広がったWeb 2.0だが、企業がその価値を理解し始めた。彼ら自身がネットワーク市民の一員となることで、新しい世界が開けると分かり、積極的にWeb 2.0の技術やサービスを自社のサービスに取り込み始めた」(オライリー氏)。

 企業がWeb 2.0の考え方を取り入れた例として、オライリー氏は米デルの顧客支援サイト「IdeaStorm」を紹介した。これはデルの製品やサービスに関する顧客からの意見や改善の要望を掲載するサイトである。投稿された改善要望に対する人気投票機能も備えている。これまでは掴みにくかった顧客の生の声を基に、製品やサービスを改善できるようになる。

 IdeaStormは米セールスフォース・ドットコムが自社向けに開発・公開してきた顧客支援サイト「Ideas」を土台に、デルが自社向けに開発した。セールスフォースのIdeasも元をたどれば、YouTubeなど一般消費者向けWeb 2.0サービスの仕組みを取り入れたもの。セールスフォースのようなソフトウエア企業だけでなく、デルのような製造業もWeb 2.0の仕組みを取り入れ始めたというわけだ。

 オライリー氏はさらに「1.0」の代表的業種として銀行業を取り上げ、「2.0」企業と比較した。大規模データセンターを運営していることや詳細な顧客データを収集していること、収集した顧客データに基づく行動分析に注力していることなど、両者には共通点が多いとしたうえで、「決定的に違う点が一つある」と指摘。それは「収集した顧客データを基に、リアルタイムの顧客対面型サービスを提供しているかどうかだ」(同)。

 ここで同氏が例に挙げたのが、WesabeというWebサイトである(写真2)。Wesabeは銀行やクレジットカードの手数料を節約するための知恵を、会員登録した利用者同士が持ち寄って共有するサイト。Wesabeが会員のクレジットカード利用履歴を分析して、その結果に会員が節約のアドバイスをする。「Wesabeは人々の知恵を集めて共有し、賢いお金の使い方を示してくれる」(オライリー氏)。

 オライリー氏は、こうしたデータは比較される対象である銀行にとっても有用であり、銀行に新しいチャンスをもたらすと指摘する。銀行もそれに気付きつつあるという。「Web 2.0によって顧客の知恵を自社のバックオフィスに取り込み、自社を内側から変えることができるようになる」(同)。

Web 2.0がクラウドを加速する

 オライリー氏が2つめの変化として挙げたのがクラウド・コンピューティングである。IBMの初代社長であるトーマス・ワトソン氏が「世界にはコンピュータが5台あれば事足りる」と語ったとされるエピソードを、“昔話”として引用。「現在ではパソコンから携帯端末まであらゆる機器がインターネット・クラウドにつながり、一つの『グローバルなコンピュータ』として振る舞うようになっている」(オライリー氏)。

 クラウド・コンピューティングの代表例として挙げたサービスが、米アマゾン・ドットコムの「EC2」である。「インターネットをOSとして活用できる、世界規模のIT基盤サービスだ」(同)。

 「アマゾンは自社でクラウド・サービスを提供するだけでなく、新たなエコシステムを形作りつつある」(オライリー氏)。アマゾンのサービスを利用したアプリケーションを開発・提供するベンダーが、続々と登場しているという。ちょうどパソコン用OSであるWindowsの普及が、アプリケーション・ベンダーの参加によって加速したように、アマゾンのWebサービスも普及や用途拡大を促す好循環を生み出しつつあるというわけだ。

 クラウド・コンピューティングにはグーグルも参戦を表明したばかり(関連記事)。Web 2.0のサービス事業者の多くが、こうしたクラウド・コンピューティングを利用して素早く自社のサービスを立ち上げている。「今後もこうしたトレンドがますます加速するだろう」(同)。

 3つめの変化はモバイル機器とセンサーによるもの。「モバイル機器とは電話だけにとどまらない。良い例がマイクロソフトの新サービスだ」。オライリー氏はこう述べて、モバイル分野における変化の兆しとしてマイクロソフトの新サービス「Live Mesh」を紹介した。ノートパソコンや携帯情報端末など非パソコン機器を、クラウドを介して連携させるサービスである(関連記事)。マイクロソフトですら非パソコン機器を前提にしたサービスに踏み出したことで、「ソフトウエアが単一のデバイスだけで動作する時代は終わった」(同)。

 「Web 2.0による変化は、まだ始まりに過ぎない。世界を変えよう」。オライリー氏は一段と語気を強めて、講演を締めくくった。