AMDは2008年4月23日、トリプルコアの新モデル、Phenom X3 8750、同8650、同8450を発表した。3月末に発表したPhenom X3 8600、同8400のバージョン違いのモデルで、8600/8400がキャッシュ周りに不具合を抱えた「B2 Stepping」だったのに対し、8750/8650/8450は不具合を解消したB3 Steppingとなる。
主な仕様は表の通り。8450が2.1GHz、8650が2.3GHz、8750が2.4GHzで動作する。そのほかの仕様は共通で、チップセットと接続するHyperTransportは3.6GHz、キャッシュはコアごとに1次が128KB、2次が512KB、全体で共有する2MBの3次キャッシュも備える。TDPはクアッドコアCPUと同じ95Wだ。トリプルコアCPUは、専用のダイ(半導体本体)ではなくクアッドコアとして製造したCPUの1個のコアの動作を止めた(あるいは動かなかった)ものだ。
日経WinPC編集部は、最上位モデルのPhenom X3 8750を入手、AMD製のデュアルコアCPUやクアッドコアCPUを交えて性能や消費電力をテストした。テストに使用したパーツは以下の通りだ。
【マザーボード】M3A32-MVP Deluxe/WiFi-AP(ASUSTeK Computer、AMD 790FXチップセット搭載)
【メモリー】DDR2-800 1GB×2(JEDEC準拠)
【HDD】WD Caviar SE16 500GB(Western Digital、WD5000AAKS)
【グラフィックスボード】Radeon HD 2400 PRO搭載ボード
【OS】Windows Vista Ultimate Service Pack 1 32ビット日本語版
CPUはデュアルコアの代表としてAthlon 64 X2 5000+(2.6GHz)と同6000+(3GHz)を用意した。クアッドコアは、最新で最上位のPhenom X4 9850 Black Editionの倍率を変更して9750相当にしたモデルだ。9750はPhenom X3 8750と動作周波数が同じなので、コアの違いによる性能差が分かりやすい。
結果のグラフはすべて9750相当の値を100%としたときの相対値になっている。まずは、CPUコア数の影響がはっきりと分かる、3D画像レンダリングのベンチマークソフト「CINEBENCH R10」の結果だ(グラフ1)。8750は9750相当品の75%の性能が出ている。3コアがきちんと使われており、デュアルコアとの差もはっきり出ている。2.4GHzのトリプルコアは3GHzのデュアルコアCPUより速い。
グラフ2は、3D画像描画のベンチマークソフト「3DMark06」におけるCPU関連テストの結果だ。このテストも、コア数の影響が反映されやすい作りになっている。クアッドコアを生かし切れないのか、CINEBENCH R10よりも8750の性能がクアッドコアに近い。
グラフ3は、現実のアプリケーションで使われているコンポーネントを利用して処理速度を測る「PCMark05」のCPU関連テストの総合スコアだ。元々、デュアルより多いコア数が生かせる処理の割合が少ないため、2.4GHzのクアッドコアが3GHzのデュアルコアと並ぶ結果になっている。この傾向を受けて、トリプルコアでもデュアルコアからはあまり性能が向上していない。CINEBENCHと3DMark06のCPU関連テストは、コア数の影響を見るためのテストという側面が強いので、性能差が出るのは当たり前。複数コアをきちんと使い切れるアプリケーションが少ない現状では、PCMark05の結果が現実の利用に近いとも言える。
なじみ深い処理でコア数が生かせる処理としては動画のエンコードがある。グラフ4は、ペガシスの動画変換ソフト「TMPGEnc 4.0 XPress」において、ソニーのHDVカメラで撮影した1440×1080ドット、1分間のMPEG-2 TSファイルをアスペクト比16:9、Windows Media Video 9 Advance ProfileでWMV形式に変換したときの処理時間を示したものだ。デュアルに対するクアッドは妥当な性能の伸びと言えるが、トリプルコアは全く振るわず、デュアルコアからわずかに性能が向上しただけにとどまっている。
このテストは複数コアを完全に使い切るわけではないが、それでもクアッドコアCPU使用時にCPUの利用率が60~80%ほどだった。デュアルコアでは100%になるので、トリプルコアでは90~100%になれば妥当と言える。ところが実際は、トリプルコアでもCPU使用率が60~80%にとどまってしまっていた。クアッドコアCPUのときよりさらにコアが使われておらず、デュアルコアに対して性能が向上しなかったのもうなずける。
試しに、720×480ドットのDV形式のAVIファイルをソースに、MPEG-2形式に変換するエンコードもテストしたところ、こちらはトリプルコアがデュアルコアよりも性能を伸ばす結果になった。CINEBENCHや3DMark06のCPUテストではコア数の違いが結果に現れていることから、ソフトウエア(WMV変換プログラム)が正しく3コアを利用できなかったとみられる。
最後にシステム全体の消費電力の結果を示す(グラフ5)。今回テストした環境では、8750のアイドル時になぜか電圧が下がらないという現象が起こった。BIOSは最新でトリプルコアを正しく認識していたのだが、「AMD OverDrive」やほかのCPU情報表示ソフトで見ても負荷時と同じ電圧になってしまっていた。BIOSやOSの設定を見直しても問題がなかったので、環境固有の問題だった可能性がある。このため、グラフ中のアイドル時の数値は本来よりも高めに出ているはずだ。負荷時を見ると、確かにクアッドコアよりは消費電力が低くなっている。Athlon 64 X2 6000+は177Wと高いが、これは初期に出回ったTDP125Wだからだろう。現在販売中のTDP89Wの6000+だと、もう少し消費電力が低い。
コアをフルに使ったときの性能はデュアルとクアッドの中間で、消費電力もクアッドよりは下がっている。まさにAMDの位置付け通りの結果になったわけだが、問題は価格だ。発表時点では、8450が145ドル、8650が165ドル、8750が195ドルとなっている。これは大手メーカー向けの1000個ロット時の卸価格。店頭向けの製品では、これにパッケージやCPUクーラー、代理店やパーツショップの利益が加わるため、為替レートより若干高くなってもおかしくない。
4月23日現在、大手パーツショップではPhenom 9500が1万7000円、9600 Black Editionが1万9000円と、Phenomの旧製品(B2 Stepping)が大幅に値下がりしており、割安感が強まっている。最新のPhenom X4 9750でも2万4000円であることを考えると、8750は1万円台後半の値付けでないと価格性能比面での魅力が少ないだろう。