左がNBC Universal チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)のGeorge Kliavkoff氏、右がForbes シニアライターのAdam Lashinsky氏
左がNBC Universal チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)のGeorge Kliavkoff氏、右がForbes シニアライターのAdam Lashinsky氏
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NBCがFoxと共同で立ち上げたテレビ番組・映画配信サイト「Hulu」
NBCがFoxと共同で立ち上げたテレビ番組・映画配信サイト「Hulu」
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 この夏の北京オリンピックは、今までにないデジタル視聴体験になるようだ。少なくとも米国での放映権を持つNBCはそのように語っている。

 2200時間のライブ放映がテレビだけではなく、オンライン、ケータイ、iPodなどへ配信される。それに加えてビデオ・オン・デマンドのサービスが用意され、アメリカで2億人が何らかの形でオリンピックを視聴することになるという。

 日本での放送と通信の融合が進むかどうかという議論がここ数年続いているようだが、米国では一足先にNBCなどのテレビ局が積極的にオンライン番組配信を進めている。

 背景には「YouTube」の成功で、動画配信・共有サイトが強化されつつあること。また、YouTubeにテレビ番組の海賊版が上がる理由は、オンラインのほかの場所でそれらの番組を見られないからであることをテレビ局も気がついたからだろう。

 2日目を迎えたad:techのキーノート講演は、NBC Universalのチーフ・デジタル・オフィサー(CDO)として、グループのデジタルメディアの戦略、企業投資・買収などに携わるGeorge Kliavkoff氏に、雑誌「フォーブス」のシニアライターAdam Lashinsky氏が話を聞く形で行われた。

 NBC Universalのデジタル部門は、米国最大の女性向けコミュニティサイト「iVillage」
をはじめ、ニュースチャンネル「MSNBC」やケーブルチャンネル「Bravo」などのオンライン部門、傘下映画会社のオンライン部門、そして系列局のサイトなどを集めて運営している。独立会計になっており、年間10億ドルを超える売り上げは対前年40%の伸び、利益は50%の伸びとなっているという。

 NBCが業界を驚かせたのは、最大の競合と考えられるFoxと共同で、テレビ番組・映画配信サイト「Hulu」を立ち上げたことだろう。HuluはNBCとFoxが50対50の比率で所有するジョイントベンチャーで、両社のテレビ番組はオンエアから一定期間、独占的にHuluに提供される。

 ただ、このコンテンツはHuluだけで提供されるわけではなく、Huluから「AOL」「MySpace」「MSN」「Yahoo!」などに配信され、米国ネットユーザーの97%にリーチできる規模であるという。現在では彼らに加えて50社のコンテンツ制作会社がHuluにコンテンツを提供している。

 これだけでは、今までのようなWeb1.0的なテレビ番組配信の考え方だ。Huluにはこれに加えて、ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)にそれらの番組を張り付けられるブログパーツや、視聴者による番組評価などWeb2.0要素を含めて、トラフィックをロングテールメディアから得ることにも努めている。この結果、ベータ段階で50万を超える視聴者を得て、現在も予想視聴数の数倍程度の高さで推移しているという。

 CMの挿入方法も視聴者のことを考えていており、ユニークだ。Huluでは番組途中のCM枠に1本ずつスポットを挿入しているが、視聴者は通常のCMより時間が長い「映画の予告編を番組前に見る」というオプションも選べる。すると、その後のCM枠には一切CMが入らないのだ。

 YouTubeは、トラフィックを大きく伸ばし続けており、米国でのオンラインビデオ視聴シェアの70%を占め、1年でトラフィックを30%以上伸ばしているとオンライン調査会社Hitwiseは報告しており、ますます強くなっているようだ。だが、NBCとFoxはプロの作る高品質テレビ番組とWeb2.0 機能を付けたHuluで巻き返しを図っている。これがすでに時期遅しとなるのか、地位を確立するのか、これからもしばらく目を離せない。夏のオリンピックをiPodで見ながら、考えることにしたい。

織田 浩一
デジタルメディアストラテジーズ代表、アドイノベーター編集長。米シアトルを拠点とし、欧米の新広告手法・メディアテクノロジー・IT調査・コンサルティングサービス、記事執筆、講演を行っている。