写真1●Salesforceの会長兼CEOであるMarc Benioff氏(左)と,Googleの会長兼CEOであるEric Schmidt氏(右)
写真1●Salesforceの会長兼CEOであるMarc Benioff氏(左)と,Googleの会長兼CEOであるEric Schmidt氏(右)
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 米Salesforce.comと米Googleは米国時間2008年4月14日,企業向けアプリケーション分野で提携し,Salesforceが提供するWebベースのCRMアプリケーションからGoogleのメールやカレンダー,Officeアプリケーションなどを利用可能にすると発表した。Salesforceの会長兼CEOであるMarc Benioff氏はサンフランシスコで開いた記者会見で「SalesforceとGoogleが次世代エンタープライズ・アプリケーション基盤を作る」と宣言した。

 この記者会見には,Salesforceの会長兼CEOであるBenioff氏に加えて,Googleの会長兼CEOであるEric Schmidt氏も登場(写真1)。「あなたのビジネスをクラウドへ」を合言葉に,両社が企業顧客向けにクラウド・コンピューティングを売り込み,各企業が自前で運用している業務アプリケーションを,今後はコンピュータ・クラウドへ移行させると宣言した。

 会見ではまず,SalesforceのBenioff氏が発言。Benioff氏は両社の提携が「個人向けだけでなく企業(ビジネス)にもクラウド・コンピューティングを提供することにある」と語る。Benioff氏はその上で,「ビジネスをクラウドでマネージする時代が始まる。SalesforceとGoogleの提携によって,企業におけるアプリケーション利用のモデルやコミュニケーションのモデルが大きく変貌するだろう」と強調する。

 続いてGoogleのSchmidt氏が登壇し,「企業にクラウド・コンピューティングを提供するというビジョンは,5年や10年先だけを見たビジョンではない。40年先といったもっと長期のスパンで考えたビジョンだ。新世代のエンタープライズ・アプリケーションがクラウドに展開されるようになったら,企業における情報の利用形態がこれまでと一変するだろう」(Schmidt氏)と強調した。

 Schmidt氏はまた,Googleが言う「企業向けのクラウド・コンピューティング」は,既存ITベンダーが語るユーティリティ・コンピューティングとはいくつかの面で異なるとも主張する。「1つめは,ブロードバンド・ネットワークが前提になっていること。エンドユーザーが無線LANを使っていつでもどこでも情報を使えるのが,我々のクラウド・コンピューティングだ。2つめは,GoogleとSalesforceがそうであるように,アプリケーションを簡単に融合できること。3つめは,現実のビジネスに今すぐ適用できる点である」とSchmidt氏は述べている。

スケジュール調整や文書共有が容易に

 両社の提携によって,具体的に何が可能になるか見ていこう。両社はこれまで,SalesforceのWebアプリケーションからGoogleのキーワード広告を購入できるようにするなど,主に広告販売で提携していた。今回,両社のアプリケーションをより深く連携させ,SalesforceのCRMアプリケーションの基盤となるコミュニケーション機能や文書共有機能に,GoogleのOfficeアプリケーションやメール,カレンダー,インスタント・メッセンジャーを利用できるようにした。これらの機能は4月14日,Salesforceのアプリケーションに「Salesforce for Google Apps」として実装済みだ。発表と同時に,英語,日本語など15言語で利用可能になっている。

写真2●GmailからSalesforceの顧客接触管理機能に用件を登録できる
写真2●GmailからSalesforceの顧客接触管理機能に用件を登録できる
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 Salesforce for Google Appsでは例えば,Googleの電子メール「Gmail」と,Salesforceの「顧客接触管理機能」が連携できるようになる。つまり,Salesforceのエンドユーザーは,企業版Gmail(各社のドメインでメールが利用できる)で顧客と連絡をとり,顧客に訪問日時を伝えるメールを送信すると,Gmailの画面から,SalesforceのCRMアプリケーションの顧客接触管理機能や,Googleカレンダーに情報を登録できるのだ(写真2)。当然ながら,CRMアプリケーションの顧客リストからGmailを使ってメールを送ることも可能だ。

 また,Salesforceの文書共有フォルダに登録されているWordファイルやExcelファイルを,GoogleのOfficeアプリケーションを使って編集することも可能だ。「スタンドアロンのOfficeアプリケーションを使っていると,顧客別に作られたプレゼンテーションのテンプレートなどを探すのも一苦労だ。SalesforceとGoogleが連携していれば,社員間で共有するドキュメントをすぐに利用できるので,生産性が向上する」(SalesforceのVice PresidentであるKraig Swensrud氏)。

 このほか,SalesforceのほかのユーザーとGoogle Talkを使ってチャットしたり(写真3),Googleカレンダーを使ってSalesforceのユーザー間でスケジュールを共有したりもできる(写真4)。特にカレンダーの場合,「社員だけではなく,顧客など社外の人物ともスケジュール共有が可能であり,顧客訪問などのスケジュール調整が容易になる」(Swensrud氏)とアピールしている。

写真3●Salesforceの画面内でほかの社員とGoogle Talkを使ってチャットができる   写真4●社員や社外の顧客などとGoogleカレンダーを使ってスケジュールを共有できる
写真3●Salesforceの画面内でほかの社員とGoogle Talkを使ってチャットができる
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  写真4●社員や社外の顧客などとGoogleカレンダーを使ってスケジュールを共有できる
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 Salesforce for Google Appsは,Salesforceのユーザーであれば無料で利用できる。また,Salesforce for Google Appsのユーザー・サポートを1ユーザー当たり月額10ドルで提供するとしている。

新機能を使うのにソフトウエアのアップグレードが必要なのは面倒

 SalesforceのBenioff氏は会見で「ユーザーは,新しい世代のソフトウエアを求めている。それは,使うのが簡単で,アップグレードが不要で,面倒なソフトウエア・インテグレーションが不要なソフトウエアだ」と自説を展開。SalesforceのようなWebアプリケーションであれば,今回のGoogleとの提携がそうであるように,ユーザーに面倒をかけずに,即座にソフトウエアの機能が追加されるというSaaS(Software as a Services)の利点を強調している。

写真5●SalesforceとGoogleのクラウド・コンピューティングを使ったアプリケーション開発が可能とアピール
写真5●SalesforceとGoogleのクラウド・コンピューティングを使ったアプリケーション開発が可能とアピール
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 またBenioff氏は,「SalesforceとGoogleのクラウド・コンピューティング基盤を使って,パートナーにアプリケーションを開発してもらいたい」とも語る(写真5)。「SalesforceもGoogleも,APIを公開している。パートナーは我々のセキュアなインフラ,サービスとして提供されるデータベースやユーザー・インターフェース,アプリケーション連携機能を利用したアプリケーションを開発できる」(Benioff氏)と述べ,SalesforceとGoogleが,米Microsoftや米IBMに代わる次世代の「エンタープライズ・アプリケーション・プラットフォーム」になるという見通しを示している。