米Microsoftは,米Yahoo!の役員会が共同歩調を取ってくれることを2カ月以上も待ったが,ついに堪忍袋の緒が切れた。Microsoftは2008年4月5日(米国時間),「Yahoo!株主に株式公開買付(TOB)を直接提案し,株主の意向に従う役員を送り込むための委任状争奪戦を仕掛ける」と脅したのだ(関連記事:米マイクロソフトがヤフーに書簡,「3週間で決断せよ」)。

 MicrosoftのCEOであるSteve Ballmer氏は,Yahoo!の役員会にあてた公開書簡で「この2カ月間,作業の進みが迅速であったとは言い難い」と書いた。「当社が62%のプレミアム付きでYahoo!に買収を提案してから,2カ月以上過ぎてしまった。迅速に,ただし最終的には友好的な関係で取引をまとめたかったため,好条件を提示した」(Ballmer氏の公開書簡)。

 当然Yahoo!は,この2カ月間のほとんどをMicrosoftの買収提案に代わる道の模索に費やした。ところが代替策は見つからなかった。米Google,米AOL,米Newsなどと提携の可能性はあったが,Microsoftの破格な提示額に比べると見劣りがした。そこでYahoo!は別の戦略も試みた。業績見通しの説明キャンペーンを1週間にわたって展開し,「将来の売上高が相当高いと予想されるので,Microsoftの示した金額は過小評価である」とアナリストを説得しようとした。しかし誰も納得しなかった。実際には,このキャンペーンでYahoo!に対抗策の全くないことが一層はっきりした。それどころか,Microsoftの出した買収額は,Yahoo!を買いかぶり過ぎだ(関連記事:Yahoo!が今後3年の業績見通し公開,「Microsoftの提示額は過小評価」をアピールか)。

 Microsoft自体も提示額が過剰であることを知っている。Ballmer氏はYahoo!あて公開書簡に「両社間で有意義な交渉が行えなかった。Yahoo!の役員会は,株主の要求に応える能力を持っていない」と書いた。「あらゆる基準から公正に評価して,当社が2008年1月に提示した大きなプレミアムは,ここに来てさらに大きくなった。Yahoo!の株主は,大多数がこの評価に同意するはずだ。公開された業績見通しを読んだ後でも,その考えは変わらないだろう」(Ballmer氏の公開書簡)。

 こうしてBallmer氏は爆弾を投下した。「3週間以内に合意できなければ,Yahoo!の役員会に送り込む役員を選ぶ委任状争奪戦を始めるなど,Yahoo!の株主に直接訴えざるを得なくなる。不本意ながら株主に直接働きかけると,Yahoo!の企業価値に望ましくない影響が生じ,これは当社の提案する買収条件にも影を落とす」(Ballmer氏の公開書簡)。ついにきた。Microsoftは買収金額の引き下げを検討しているのだ。

 次の週になっても,Yahoo!の役員会は拒否できないMicrosoftの提案に対して沈黙を守っている。ただし4月7日の早い時間,初めて調整に動きそうな表現の入った声明を出した。Yahoo!会長のRoy Bostock氏とCEOのJerry Yang氏による声明には「株主の利益を最大化できるのであれば,Microsoftとの取引に反対することはない」とあった。「当社の立場は単純だ。当社の企業価値を完全に反映している取引なら,Microsoftにどのような戦略的メリットがもたらされるものであっても,株主を確信させられる条件が示されれば,例外なく受け入れる」(関連記事:Yahoo!がMicrosoftの買収提案を改めて拒否,「委任状争奪戦は逆効果」)。

 Yahoo!は声明のなかで,Ballmer氏の「脅迫」が逆効果になるとし,買収提案の発表以降にYahoo!の取った行動を公開書簡で曲解していると主張した。

 この戦いに勝者はいない。Microsoftの提示した金額は,ひどい制御不能に陥っていて短期的または長期的な財務状況の改善が見込めない企業に対するものとしては,あまりにも高い。MicrosoftがYahoo!から関連性のないオンライン・サービスを取得し,低迷している自社のオンライン事業と統合したところで,オンライン市場の2番手プレーヤになるだけだ。しかも,数百億ドルの負債を抱える企業と一緒になることで,現在のまま両社が別個に活動するよりも機能不全状態が悪化する。

 つまり,なぜYahoo!はMicrosoftの企業救済策的な過大評価による買収提案を理解できないのだろうか。ただし,そもそもMicrosoftがYahoo!などを求める理由も想像できない。両陣営とも状況を全く分かっていない。