情報処理技術者試験への合格を、該当するスキルレベルの「エントリ基準」とする――。

 ITスキル標準のスキルレベルに情報処理技術者試験をどう位置付けるのかで関心を集めている「ITスキル標準(ITSS) V3」が3月31日、正式に発表された。試験への合格を「該当するレベルの『エントリ基準』とする」、すなわち、そのレベルの「必要最低限の能力レベルに到達していると見なす」、というのが、その位置づけの回答である。

 現行の「ITSS V2 2006」に対する「V3」の主な変更点は、(1)レベル1、2にあった専門分野の区分をなくし、これらのレベルにおける基礎知識の記述を職種にかかわらず統一、(2)情報処理技術者試験をレベル認定の「エントリ基準」として位置付け、(3)コンサルタント、ITスペシャリスト、アプリケーションスペシャリストの3職種の専門分野を変更、の3つである。しかし、IT企業から要望が強い品質保証に関する職種の追加は、今回も見送られた。

 まず(1)では、「エントリレベルの人材には、職種に特化した知識だけでなく、幅広い知識の習得を目指して欲しい」との考えから、職種にかかわらずレベル1、2の基礎知識を共通化した。職種とレベルをマッピングしたキャリアフレームワークの記述では、レベル1、2における専門分野の枠を取り去っている。実際、「レベル1、2の人材に、そもそも専門性は問えないし、問うべきでない」との意見は以前から強く、今回の変更は妥当と言えるだろう。その結果、レベル1の規定がなかったカスタマサービスの専門職種「ファシリティマネジメント」について、レベル1が存在するかのように見える形になったが、大した問題にはならないはずだ。

 ITSS V3の最大の注目点である、(2)試験によるレベル評価はどうか。2007年後半の段階では「試験合格をもって、当該レベルと見なす」という大まかな方針のもとに、新設のITパスポート試験(IP)合格をレベル1、基本情報技術者試験(FE)合格をレベル2、応用情報技術者試験(AP)合格をレベル3に、それぞれ対応づ
ける方向だった。しかし、ITSSには規定がなくても、例えばレベル2と3の間には2.2や2.5など無限段階のレベルが現実には存在する。単純に「試験合格=当該レベル認定」とすると、FEの場合、「レベル2以上レベル3未満」という非常に広いスキルレベルを認定することになってしまう。

 別の問題もある。レベル1はともかく、レベル2や3になると、多少なりとも業務経歴や実績が問われる。、試験でそれを判定できるのかどうか、という問題がそれだ。IPAや傘下の試験センターは、「試験で経験も判定できる」という。だが、試験の中でも特にFEには、高校生も含む学生の受験者や合格者が少なからず存在する。加えて「実際に経験を判定できるかどうかよりも、それが市場での信任を得られるかどうかが重要」である。

 さらにITSSを活用している企業における問題もある。IPAがITSSのユーザー企業を訪問してヒアリングしたところ、30社中1社しか、試験を社内の認定制度に位置付けていなかったという。大半の企業は試験とは別の基準で、自社のエンジニアのレベルを評価・認定しているわけである。したがって、「試験の合格をもってレベルを認定する」ことを無理に推進すると、ITSSのユーザー企業に負担をかけかねない。「受験者の増加につながるIPAはいいかも知れない。しかしエンジニアの中には、優秀だがなぜか試験に合格できない人もいる。彼らに合格を無理強いする結果として、業務のパフォーマンスが低下するのは避けたい」(あるIT企業の人事担当者)。

 こうしたことからITSS V3では、最終的に「試験合格はそのレベルに期待される必要最低限の能力レベルに到達しているものと見なす」、つまりエントリ基準に落ち着いた。同時に、これまで通り、情報処理技術者試験を用いないレベル評価指標も併存させることを明記した。必ずしも情報処理技術者試験の受験を優先でき
ないケースや、成果や業績はあるものの試験合格の実績がない人材の評価には、「今まで通りのスキル熟達度や達成度指標を使って欲しい」というわけである。「どちらをレベル基準とするかは、企業や市場の判断に委ねたい」と話している。