図1 制度分野の実験
図1 制度分野の実験
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図2 ファイルダウンロードの処理概要
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図3 IPoverデジタル放送のサービス例
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図4 IPoverデジタル放送の位置づけ
図4 IPoverデジタル放送の位置づけ
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図5 地下鉄構内での配信実験
図5 地下鉄構内での配信実験
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 エフエム東京とCSK-ISが実施主体となり展開する予定の福岡におけるユビキタス特区では,「IP over デジタル放送」など各種の取り組みが行われる。FM東京が参加するマルチメディア放送ビジネスフォーラム(旧名称はデジタルラジオニュービジネスフォーラム)は2008年3月28日,会員向けの説明会を開催し,実験の概要を明らかにした。

 福岡市におけるユビキタス特区では,福岡タワーに送信機を設置する。VHFの第7チャンネルを利用し,最大出力180W(30W×6セグメント)で電波を発射する。2008年7月の予備免許,10月の本格的なサービス実験の開始を見込んでいる。現行のデジタルラジオの実用化試験放送と同じ周波数でかつ仕様も同じであるため,既に商品化されているデジタルラジオ端末(携帯電話機やUSB型受信端末)はそのまま利用できる。

 この実験では,「レイヤー体系の地域放送への適用」「放送波ダウンロードコンテンツ課金の検証」「放送によるIP伝送」などに取り組む。

 「レイヤー体系の地域放送への適用」では,総務省の「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」で提言されている3階層モデルを地上波地域放送に適用する。「情報通信法(仮称)」の先取り実験と位置づける。具体的には,CSK-ISがインフラレイヤーを担当,FM東京は編成レイヤーを担当する(図1)。コンテンツは,FM東京に加えて,地元の放送事業者などの協力を得てそろえる。

 この実験では,単なるハード/ソフトの分離だけではなく,インフラレイヤーと編成レイヤーの事業者間の新たな関係の構築を模索していく。具体的には,両レイヤーの事業者間でレベニューをシェアするイメージを想定している。レベニューシェアーという形態にすれば,編成レイヤーの事業者が有力なコンテンツを用意しない場合,インフラレイヤーの事業者の収入も減ることになる。この結果,インフラレイヤーの事業者も事業リスクを負う。このため,業績が不振な編成レイヤーの事業者には撤退を要請することになる。編成レイヤーの事業者は常に競争にさらされることを意味する。「これがいいのか議論もあるだろうが,実験として取り組んでみたい」(FM東京 執行役員 デジタルラジオ事業本部長 兼 マーケティング部長の藤 勝之氏)という。現行のCSデジタル放送における受託・委託放送事業者の枠組みを越えて,「よりニーズにあった契約体系」(FM東京の藤氏)を模索するための取り組みと言えそうだ。

 「放送波ダウンロードコンテンツ課金におけるビジネスモデル検証」はFM東京が特に力を入れている分野である。音楽だけではなく,「カーナビへの地図データのダウンロード,電子書籍の配信,株価情報を配信など新たなビジネスモデルを生む可能性がある」と期待するためである。デジタルラジオ推進協会が免許交付を受けているデジタルラジオの実用化試験放送でも,FM東京は図2に示した仕組みで無料のダウンロード実験は行ってきており,今すぐにでも有料実験は行える体制にあるという。ところが,「FM東京はこれまで実験の実施を訴えてきたが実現していないし,また2008年3月の総会でも当面先送りになったため,福岡におけるユビキタス特区で全面的に展開する」(FM東京の藤氏)という。

 「IP over デジタル放送」は,慶応大学が主体になって開発した方式「IP over デジタル放送(IoDB)」を用いる(図3,図4)。インターネットと放送の連携技術を確立することを目標にしている。インターネットの技術革新が放送にも適用され,「進化する放送」が実現できると位置づける。

 このほか,複数方式に対応するマルチメディア放送端末の開発を進める。端末開発でも国際競争力の強化につなげたいという。また地下鉄内送信実験などの計画も紹介した。