会見に臨む現社長の黒川博昭氏(左)、経営執行役上席常務の野副州旦氏(右) (写真:中村 宏)
会見に臨む現社長の黒川博昭氏(左)、経営執行役上席常務の野副州旦氏(右) (写真:中村 宏)
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 富士通は2008年3月27日、都内で記者会見を開き、野副州旦(のぞえ・くにあき)経営執行役上席常務が4月1日付で副社長に昇格し、6月下旬の株主総会後に社長に昇格する人事を発表した。現社長の黒川博昭氏は相談役に、現会長の秋草直之氏は取締役相談役に退く予定だ。合わせて、現副社長の間塚道義(まづか・みちよし)氏は代表取締役会長に昇格する。

 野副氏は「プロダクト、サービス、運営までワンストップで最適なソリューションをスピーディーに提供できるグローバルカンパニーを目指す」と決意を語った。間塚氏は「顧客起点を軸に、顧客や外部の声を経営に反映していきたい」と語った。会見での主なやりとりは以下の通り。
(安井 功、目次 康男=日経コンピュータ)

黒川社長が野副氏を次期社長に決めたのはいつ頃か。また、秋草会長には人事についてどのように相談したのか。

黒川氏:秋草会長とは2007年12月ころからずっと人事をどうするかを話しあっていた。二人とも私のワンマンコントロールだった経営について問題があるという認識を持っていた。問題を解決するためにどのようにすればいいのかディスカッションし、それぞれが人事のアイデアを持ち寄ったのが始まりだ。

 フタを開けてみたら二人とも同じような人事案だった。野副氏を社長にという考えは、二人とも一致していた。バランス感覚がいいのと、マネージメントができること、現場に出ていくという点を評価した結果だ。

 2008年2月に、野副氏に社長就任について打診した。「晴天のへきれきでとんでもない」という顔をしていたが、十分に考えてもらい返事をもらった。秋草氏がうまく説得してくれたと思っている。

富士通が抱える経営課題についてどのように考えているのか。また、それをどのように解決していく方針か。

野副氏:富士通の大きな課題はグローバル化と、単独の営業利益の改善にあると感じている。

 黒川社長がこれまで進めてきた構造改革は、国内で強い力を蓄えてきた。営業利益率も改善し、アウトソーシング事業も二桁成長と好調だ。

 しかし、収益を上げるための基盤をそのまま海外で展開するためにはリソースに限界があると感じている。また、サーバーやストレージといったハード面で、海外に通用するプロダクト作りも必要だ。サン・マイクロシステムズやインテルなどのパートナーと組むことで、グローバル展開を進めていくことが重要だと考えている。海外の拠点を起点に、強いプロダクトを用意するなどの方策について、徹底的に議論をしていきたいと思っている。国内のサーバーのシェアが4年ぶりに1位になった勢いを失わず、グローバルにも展開したい。

 M&Aは、基盤の強化や事業の拡充のためにはよいと思うが、「本当にマネージメントできるのか」「誰がマネージメントするのか」といった2点が大きな課題となると思う。この課題が解決できないのであれば、M&Aは慎重にしたい。

今後の経営で独自色を出すような施策はあるのか。

野副氏:今後の方針として「顧客視点での経営」を軸とすることは、これまで通りぶれることはない。顧客から信頼されるパートナーとして、また、株主から成長を支えてもらえるような会社にしていきたい。強いプロダクトを作るためには、それぞれの事業責任者が、事業の中でキャッシュフローや投資効果をきっちり見極めることが重要だ。どのような布陣にするかはじっくりと考える。

 ただ、働き甲斐がある会社にしたい。顧客に付加価値の高いサービスを提供できる人材を育成できるかに注力し、最適な配置や最適なリソース活用を徹底したいと思う。

日本のエレクトロニクス業界の中で、富士通の存在感に対するビジョンをどのように考えているのか。

野副氏:顧客にテクノロジーソリューションを提供するところにある。サーバーからソフト、アプリケーション開発、運用、メンテナンスなど、ワンストップでサービスを提供するIT企業として、富士通の地位を築きたい。他社との競争力の優位性を維持するために、テクノロジーやものづくりを大事にしていきたいと思っている。

今回の人事は東京証券取引所のシステムトラブルと関係があるのか。また、取締役を外れる意図は何か。

黒川氏:東証のシステムトラブルと今回の人事はまったく関係がない。東証のシステムに対しても、影響を与えることはないと思っている。

 私が取締役を外れるのは、野副氏と間塚氏が自由に富士通の経営に腕を振るえるようにする環境を作るためだ。

 私が社長の時には、副社長たちと連帯して仕事を進めてきた。いろいろやると決めたことに関しては、間塚氏など副社長たちと共有できていると思っている。しかし、その中でワンマンコントロールの弊害が生じてきた。

 例えば、富士通の広い業務範囲のプロジェクトではビジネスの環境や風土、サイクル、競争相手など違うものがいろいろとある。権限を移行していたつもりだったが、最終的には常務会で決定することが多かった。その常務会では、社長の顔を見て意見を言わなくなってしまうことも多かった。「黒川さんは決めているのでしょ。足をひっぱるつもりはない」という声も聞こえてきた。

 現場の状況を把握するつもりで歩き回ったり、メールなどで情報を収集したが、「黒川さんに言ったことが知られると、自分の職場でやりにくくなるので気を付けてほしい」という声を多く聞いた。このため、現場の状況が素直に上がってこなくなった。

 このようなワンマンコントロールの弊害を取り除くためにも、思い切って取締役を外れたほうがいいと判断した。企業が永久に成長しつづけるためには、リーダーの交代は必要だ。

 秋草氏は取締役に残ることが必要と判断した。社外に対する付き合いは秋草氏が担当していたため、取締役に残ることでこれまで通りの社外関係を引き継ぐことができる。

人材育成として進めていたプロジェクトの「フィールドイノベータ」について今後どうする方針か。

野副氏:フィールドイノベータのスタートには自分も関与している。今、新しい時代にそった人材の育成が必要と思う。特に、顧客が抱える課題に富士通が一体となって、顧客と同じ視点で取り組める人材の育成は重要だ。

 一般的にはM&Aなどを通してそのような人材を獲得できることが多い。しかし、富士通での色々な経験を積んだ人を育てることが重要だ。外からもってくるのではなく、富士通での経験を持った優秀な人材を再教育することがフィールドイノベータの根源にある。今はようやく基礎が終わったところだ。フィールドイノベータとして1年かけて人材を育成していきたい。富士通のきわめて重要な取り組みと思っている。