言語グリッドによって海外との交流が活発に
言語グリッドによって海外との交流が活発に
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和歌山大学がセカンドライフ内に開設する「言語バリアフリールーム」。中国語を話す人と、京都の文化について会話している
和歌山大学がセカンドライフ内に開設する「言語バリアフリールーム」。中国語を話す人と、京都の文化について会話している
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多文化共生センターきょうとが発表した、多言語による医療受け付け支援システム
多文化共生センターきょうとが発表した、多言語による医療受け付け支援システム
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 日本語でチャット画面に「こんにちは」と書き込めば、ネットの向こうにいるフランス人の友人の画面には「Bonjour」と表示される――。言葉の壁を越えるこんなサービスの実現に向けて、一つのプロジェクトが動いている。情報通信研究機構(NICT)の「言語グリッドプロジェクト」だ。NICTは2008年3月17日、言語グリッドに関するシンポジウムを開催。言語グリッドの利用事例や、開発中のソフトウエアを紹介した。

 言語グリッドは、世界中に存在するさまざまな技術やデータを共有し、多言語によるサービスを実現するための基盤ソフトウエアのこと。具体的には、機械翻訳エンジンや辞書、用例対訳(原文と、それを翻訳した文との組み合わせ)などの共有を目指す。こうした技術やデータ(言語資源と呼ぶ)は、世界各国でさまざまな組織が開発している。これらをインターネットを通じて組み合わせることで、多言語チャットや多国語での情報提供などのサービスを、手軽に構築できるようになる可能性がある。例えば英語を日本語に翻訳するエンジンと、アラビア語を英語に翻訳するエンジンを組み合わせれば、アラビア語を日本語に変換できるようになる。

 既に運営されている言語グリッドには、京都大学のものがある。海外では中国科学院、イタリア国立研究所、ドイツ人工知能研究所、シュツットガルト大学などが、国内では国立情報学研究所、NTTコミュニケーション科学基礎研究所、アジア防災センターなどが言語資源を無償で提供している。いずれも標準的なWebサービスとして利用できる形になっており、非営利目的なら無料で使える。

 例えば和歌山大学は、言語グリッドを活用し、仮想空間「セカンドライフ」内で「言語バリアフリールーム」と呼ぶ部屋を開設している。セカンドライフは世界中の人々とコミュニケーションできる場だが、主要言語は英語で、それ以外の言語を話す人には敷居が高い側面がある。これを下げるため、機械翻訳による多言語チャットを開発。この部屋の椅子に座るだけで、中国語、韓国語、英語を話す人と会話ができる。

 シンポジウムでは、既に国内で稼働中のシステムも3種類報告された。NPO法人である多文化共生センターきょうとは、医療機関における外国人患者の支援システムを紹介。自分がどの受診科に行けばよいか、どんな手続きが必要かを案内してくれる受け付けシステムである。外国人の生徒が多く在籍する川崎市立富士見中学校は、多言語による会話システムをデモ。国籍を超えた子どもたちのコミュニケーションを支援するNPO法人パンゲアは、母国語の異なるスタッフ同士が、自動翻訳機能付きの掲示板を通じてコミュニケーションしている事例を発表した。医療、学校など特定の分野で使われる専門用語については、それぞれで辞書を作成し、活用しているという。

 ただいずれの発表でも指摘されたのが、現状では機械翻訳の精度に不足があること。不正確な訳文が表示され、かえって利用者が混乱する場面が見られることもあるという。機械翻訳システムの精度向上と同時に、各分野における用例対訳の収集など言語資源のさらなる充実も求められている。