写真●経済産業省商務情報政策局情報通信機器課の星野岳穂参事官
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 「福田康夫首相がダボス会議で,グリーンITに関わる提案を行っている。政府の首脳が公式の場で『グリーンIT』に言及するのは,主要国でも例が無いことだ」---経済産業省商務情報政策局情報通信機器課の星野岳穂参事官は2008年3月13日,東京・渋谷で開催された「ITproグリーンITフォーラム2008 Spring」の基調講演でこのような逸話を披露した。

 星野氏は基調講演で,グリーンITに関する最近の日本政府の取り組みを説明した。日本は京都議定書に基づき,2012年までに温室効果ガスの排出量を1990年の水準に比べて6%削減することを目標にしている(ただし2005年の段階では,温室効果ガスの排出量は1990年に比べて7.8%増加しているのが現状である)。

 また2007年5月には当時の安倍晋三首相が「美しい星50」というプランを発表。世界全体の温室効果ガスの排出量を,2050年までに半減させるという方針を世界に提案した。「温室効果ガスの削減を実現するためには,革新的な技術開発が不可欠」(星野氏)であり,日本としてはグリーンIT分野での技術革新を推進する方針である。その象徴が,2008年1月にスイスで開催されたダボス会議(世界経済フォーラム)における,福田首相の発言であった。

 福田首相はダボス会議の基調講演で,「日本としても石炭火力発電所からのCO2排出をゼロにする技術や,低コストで高効率の太陽光発電技術,グリーンITなどの開発を加速する」と発言。これに関して星野氏は冒頭で紹介したように「政府首脳が公式の場でグリーンITに言及するのは例が無いことだ」と,日本がグリーンITを重視していることを強調した。

 グリーンITに関して星野氏は,2つの側面があると解説した。1つは,情報量の加速度的な増大によって,今後もITの消費電力が急増することが予測されており,それを抑制する必要があるということ。もう1つは,ITを活用してオフィスや家庭におけるエネルギー消費を減らすという課題である。

 ITの普及に伴う消費電力増大に関して,星野氏は「日本で言うと,2025年にはITの消費電力量が2400億kWhになると見込まれている。これは日本の電力消費の2割をIT機器が占めるようになることを意味する。このような膨大な電力をどう供給するかだけでも大きな問題になる。このような未来にならないように,技術革新を進めなければならない」と指摘する。

 同時に星野氏は「省エネを実現するために,ITは使わないほうがいい,というわけではない」とも指摘する。それは,ITを活用することで省エネが実現できるという側面もあるからだ。星野氏は「(製造現場などの)産業界では省エネが進んでいるが,(オフィスなどの)業務部門や,家庭部門ではエネルギー消費が増えている。なかなか省エネが進まない業務・家庭部門だが,空調や照明機器,OA機器などの技術革新によって抜本的な省エネが実現できる」と訴える。

 例えば,自動車のエンジン制御技術やエアコンなどの省エネ技術の進化,家庭用照明のLED(発光ダイオード)化などによって,省エネが見込めるという。また,ITを活用して,工場やオフィス・ビルの電力供給・制御システムを高度化することで,工場やオフィスにおけるエネルギー消費の最適化・削減が期待できる。「住居においても,センサー技術が発達することで,今までなかなかできなかった家庭内のエネルギー消費の最適化が実現できるだろう」(星野氏)。

 星野氏は「家電製品を10年前と比較すると,エアコンの場合で51%,冷蔵庫は73%,テレビは44%も消費電力が減っている。これらの家電製品を買い換えるだけで,家庭における3割の省エネが実現できる。ITを普及させることで省エネが実現できるということを,広くアピールする必要がある」と語り,政府として「グリーンITイニシアティブ」という活動を通じて,グリーンITへの取り組みを強化していることをアピールした。

 星野氏によれば,グリーンITイニシアティブで重視しているのが,データセンターにおける消費電力量を30%以上削減する技術や,ルーターの省エネを実現する技術の開発だという。「データセンターの冷却技術を水冷に変えたり,発生した熱をヒートポンプで回収する技術などが重要になるだろう。また,今後はサーバーよりも,ルーターのようなネットワーク機器での消費電力が増加すると見られている。ルーターの省エネが重要になるだろう」(星野氏)。