写真●「ITproグリーンITフォーラム2008 Spring」の基調講演に登壇した,東京大学大学院工学系研究科の松野泰也准教授
写真●「ITproグリーンITフォーラム2008 Spring」の基調講演に登壇した,東京大学大学院工学系研究科の松野泰也准教授

 2008年3月13日,東京・渋谷で開催された「ITproグリーンITフォーラム2008 Spring」の基調講演で,東京大学大学院工学系研究科の松野泰也准教授が登壇し,「地球温暖化はまさに危機的な状況にある。グリーンITをブームに終わらせることなく,今こそ産官学が一致団結して,省電力・省資源に取り組むことが必要だ」と呼びかけた。

 冒頭で松野氏は,過去100年間の日本各地の平均気温の変化グラフを紹介。「この100年間で東京の平均気温は1度上がった。これは東京の動植物の生態系が,宮崎のようになるということを示している。平均気温が3度上昇すると,ほとんどの動物は変化に対応できずに絶滅に瀕すると言われ,地球温暖化は抜き差しならぬところまできている」と説明した。

 「2008年は,グリーンIT元年と言われる。産官学が連携して,IT機器の省電力技術に取り組む動きが加速しており,この流れをブームで終わらせてはならない」と松野氏は主張する。京都議定書において日本は,1990年比で-6%のCO2削減目標を課せられているが,2006年度ですでに6.4%も増えている。その要因の一つとなっているのが,IT/ネットワーク機器による電力消費量の増大だ。

 10年前,日本のITインフラは世界的に見て大きく遅れていた。それが「政府のe-Japan戦略などによって,高速インターネット網の世帯普及が急速に進み,結果としてIT機器による電力消費量の増加に拍車がかかった」(松野氏)。経産省はこのままのペースで増え続ければ,2025年には2400億kWhになると予想する。2005年度の電力大手10社の電力供給量が8830億kWhであることを考えると,いかに危機的な状況かがわかるだろう。

2つの視点でグリーンITに取り組むべき

 「電力の削減は,コスト削減に直結する。グリーンITは,ITユーザー,ITベンダー,電力会社と,誰にとってもメリットがある」という松野氏は,2つの視点からグリーンITに取り組むべきという持論を展開する。

 一つは,「グリーン of IT」。IT機器の消費電力の削減や,資源のリサイクルによって,資源エネルギー効率を高める取り組みだ。もう一つは,「グリーン by IT」。ITを活用した情報通信サービスによって,人やモノの移動を減らしたり,業務の効率化を図るなどして,環境に与える負荷を低減しようという取り組みである。

 ここ数年松野氏は,特に「グリーン by IT」の研究と普及に精力的に取り組んできた。日本環境効率フォーラムに「ICTソリューション ワーキンググループ」を立ち上げ,その委員長として情報通信サービスによるCO2削減効果の評価手法の研究や,IT関連各社による先進活用事例などをとりまとめた。例えば,NTTの取り組みでは,テレビ会議システムを導入して出張会議を減らしたところ,年間のCO2排出量を8割削減できたという。

 一方で,松野氏はベンダーや情報通信サービスのプロバイダにこう注文をつける。「ITによる情報通信サービスの開発は,人の生活習慣に合ったものを提案してほしい。そうでなければ,環境に与える負荷は返ってリバウンドする」(同氏)。

 松野氏は,MicrosoftのOutlookを使い,パソコン上でスケジュール管理をしている。しかし,外出が多いため,2重に約束を入れて失敗してしまうことがよくあったという。そこで携帯情報端末にスケジュール表をシンクロさせて使うことにしたが,うまく使いこなせず,返ってプリントアウト量を増やす結果になった。その後,NTTドコモの携帯電話「F905i」から,スケジュール表のシンクロが可能になったため,ITだけでスケジュール管理が完結できるようになったという。

 最後に松野氏は「グリーン of IT」の省電力以外の側面である「IT機器のマテリアル・リサイクル」が,今後クローズアップされるだろうと語った。「パソコンや携帯電話機などに使用されている金は貴重なレアメタル。日本の電子機器に蓄積されている金の量は,南アフリカの鉱山の埋蔵量を超えたとさえ言われている。企業はIT機器のマテリアル・リサイクルをビジネス・チャンスとして捉え,貴重な資源の有効活用に取り組んでほしい」と松野氏は語り,ブームに終わらない根強いグリーンITの取り組みを呼びかけた。