アジア初のフェムトセルの国際会議「Femtocell Solutions ASIA 2008」が,2008年3月11~12日(現地時間)の2日間,香港のザ・エクセルシオール香港で開催されている。初日の11日,基調講演でソフトバンクモバイルとNTTドコモがフェムトセルへの取り組みについて語った。

 フェムトセルとは,ユーザー宅内に設置可能な超小型の携帯電話基地局のこと。電波の出力も小さく,戸建住宅1軒やマンションの1部屋をカバーする程度だ。家庭の商用ブロードバンド回線にフェムトセルを接続し,家庭内に“自分専用”の基地局を作れる(関連記事)。

 フェムトセルを導入するメリットは,屋内で電波の届かない場所を簡単にカバーできることや,高速なデータ通信が可能になることだ。データ通信速度が高速になるのは,一つの基地局に接続する端末数が1~4台と少なくなるからである。帯域を分け合う端末が少ないため,1端末当たりのスループットを高くできる。

データ・トラフィックの負荷分散に期待

写真1●ソフトバンクモバイルの宮川潤一・取締役専務執行役員兼CTO
写真1●ソフトバンクモバイルの宮川潤一・取締役専務執行役員兼CTO
 ソフトバンクモバイルの宮川潤一・取締役専務執行役員兼CTOは,フェムトセルにはデータ・トラフィックの負荷分散を期待していると語った(写真1)。同社ではデータ利用の伸びが著しく,特に一般サイト向けのトラフィックがデータ全体の約80%に上る。このデータ・トラフィックを,フェムトセルを利用してコア・ネットワークを経由せずに直接インターネットに流すことで負荷を分散できるとみている。

 フェムトセル基地局でパケットを制御する必要があるため,フェムトセル基地局に交換機相当の機能を持たせる方向で開発を進めている。既存網との親和性を重視して,フェムトセルのベンダーにNECを選定した。フェムトセル基地局の接続回線には,まずはグループ会社のブロードバンド・サービス「Yahoo!BB」を利用する。その後,QoS(quality of service)制御などに対応できれば,他社回線の利用も検討するという。

 2008年4月1日からソフトバンク社員によるトライアルを,5月からは一般ユーザーも含めた商用トライアルを実施するという。実際のサービス開始は「総務省との調整が9月くらいまでかかる。これが順調に進めば10月には商用サービスを開始したい」(宮川CTO)とした。

不安定なフェムトセルのカバー範囲,原因は電波不足

写真2●NTTドコモの尾上誠蔵・無線アクセス開発部長
写真2●NTTドコモの尾上誠蔵・無線アクセス開発部長
 一方のNTTドコモは,尾上誠蔵・無線アクセス開発部長が登壇した(写真2)。尾上部長は「我々は2007年からフェムトセルの商用で展開している。ただ,報道発表が日本語だけだったせいか,海外ではほとんど知られていないようだ。英語版のWikipediaを調べたら,『NTT DoCoMo』について一言も書かれていなかった」と会場を笑わせた。

 同社は,屋内のカバー・エリア拡大を目的にフェムトセルを一部で導入している(関連記事)。ユーザーのアクセス回線ではなく,NTTドコモが契約した回線にフェムトセルを接続する。この形態を採っているのは,日本の制度がフェムトセルの導入に追いついていないためだ。制度が改正されれば,ユーザーの回線を利用したサービスを検討するという。

 導入に当たっての課題として「都市部で周波数が足りない」(尾上部長)ことを挙げた。NTTドコモは,都市部では割り当てられた周波数をすべて使っている。そのため,屋外基地局とフェムトセル基地局で同じ周波数の電波を使わなければならない。フェムトセル基地局の電波と屋外基地局の電波が干渉することになる。

 結果,ユーザー宅の場所が屋外基地局から近いほど,フェムトセル基地局のカバー範囲が狭くなる。基地局のごく近傍では,ほとんど利用できないくらいフェムトセル基地局のカバー範囲が狭くなる。そのため,「事業者でもフェムトセルのカバー範囲を完全には調整できない」(尾上部長)という前提で,サービスを考えなければならないとした。

 尾上部長は,今後のフェムトセルの高速化計画も公開。2008年中に既存のフェムトセル基地局をソフトウエアのアップデートでHSDPA(high speed downlink packet access)に対応させ,下り最大3.6Mビット/秒に高速化する。さらに2009年には,ハードウエアを見直してHSUPA(high speed uplink packet access)にも対応。下り最大14Mビット/秒,上り最大5.7Mビット/秒のフェムトセル基地局を実現させるとした。