写真●公開実験のようす ICタグ・リーダーで医薬品に付けたICタグを読み取っているところ
写真●公開実験のようす ICタグ・リーダーで医薬品に付けたICタグを読み取っているところ
[画像のクリックで拡大表示]

 経済産業省は2008年3月7日、無線ICタグを使って医療品のトレーサビリティ情報を一元管理する公開実験を実施した。個品単位で医薬品にICタグを張り付け、医薬品に問題があると分かったときに、直ちに利用を止められる仕組みを実現した。患者に投与する直前にベッドサイドでICタグを読み取り、インターネット上の統合データベースを参照して、問題の有無をチェックする。それを「リーダーとパソコンを導入するだけで十分実用になることを示せた点が大きい」と実験を主導した、東京医科大学と米マサチューセッツ工科大学の客員教授を兼任する秋山昌範は強調する。小規模な病院や卸業者でも導入しやすいメリットがある。

 ICタグの国際標準化団体であるEPCグローバルが規定するコード体系「EPC」をICタグに格納し、トレーサビリティ情報のデータベースは、同団体の標準規格「EPCIS」に準拠するものを利用した。国際的に共通の枠組みで、医薬品の品質情報を管理できる。

 医薬品の品質に問題があると分かったときの処理手順は次の通り。メーカーなどが、EPCISデータベースにICタグのIDとひも付く形で、品質に問題があったことを登録。特定のロットだけに問題があるなら、そのロットに含まれるICタグIDだけを対象に情報を登録する。その医薬品全体を回収するといったことを避けられる。

 病院ではベッドサイドでICタグIDを読み取り、インターネット経由でデータベースにアクセスして、問題の有無をチェックする。医薬品の物流過程でもICタグを読んでおけば、メーカーは、問題の医薬品がどの病院に何個納入されているかまでトレースすることもできる。回収の手間は大幅に削減される。

 今回の実験では、13.56MHz帯のICタグを医薬品に張り付けた(写真)。ただし「世界の潮流はUHF帯のGen 2に集約されつつある。通常は読み取りにくい水分への対応もすでに問題ない」(秋山客員教授)。今後は、UHF帯ICタグの適用を検討している。

欧米に遅れをとる恐れ

 欧米の大手医薬品メーカーは「主に偽造薬対策のため、医薬品にICタグを付けようと一気に投資を始めている」(秋山客員教授)という。そのための標準規格作りを、バーコードやICタグの標準化を推進するGS1で進めているが、「日本の医薬品メーカーがそれに参加していない」(秋山客員教授)。このままでは、日本の商習慣にあわない規格が固まる恐れがあるが、「今回の実験により、日本から提案を出すための作業をようやくスタートできる」(秋山客員教授)という。

 医薬品にICタグを付ければ、物流管理や院内などでの在庫管理にも活用できる。メーカーと卸業者、病院のそれぞれが利益を得る仕組みを実現できそうだ。ただし、このままでは日本が取り残される恐れがある。