AMD 780G搭載のマザーボードにRadeon HD 3450などを取り付け、BIOSで設定すると「Catalyst Control Center」でCrossFireが有効になる。
AMD 780G搭載のマザーボードにRadeon HD 3450などを取り付け、BIOSで設定すると「Catalyst Control Center」でCrossFireが有効になる。
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【グラフ1】3DMark06の実行結果。Phenom利用でHybrid CrossFireX構成だと性能が大幅に向上する。
【グラフ1】3DMark06の実行結果。Phenom利用でHybrid CrossFireX構成だと性能が大幅に向上する。
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【グラフ2】アクションゲーム「クライシス完全日本語版」によるベンチマーク結果。かっこ内の数値はfps(1秒間当たりの描画フレーム数)。
【グラフ2】アクションゲーム「クライシス完全日本語版」によるベンチマーク結果。かっこ内の数値はfps(1秒間当たりの描画フレーム数)。
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Radeon HD 3650を取り付けても、「CrossFire」のタブは現れず、Hybrid構成が選べない。
Radeon HD 3650を取り付けても、「CrossFire」のタブは現れず、Hybrid構成が選べない。
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【グラフ3】3DMark06の「HDR/SM3.0」テストを実行したときのシステム全体の消費電力。Hybrid構成を有効にしても無効にしても、消費電力はほぼ変わらない。
【グラフ3】3DMark06の「HDR/SM3.0」テストを実行したときのシステム全体の消費電力。Hybrid構成を有効にしても無効にしても、消費電力はほぼ変わらない。
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 2008年3月5日、米AMDは新型チップセット「AMD 780G」を正式発表するとともに、対応するグラフィックスドライバー「Catalyst 8.3」を公開した。AMD 780Gは、Windows Vistaから対応している3次元(3D)画像描画機構の「Direct3D 10」や強力な動画再生支援機能を備えた、グラフィックス機能を内蔵したAMD製CPU向けのチップセットだ。正式発表前の2月上旬ごろから、既にパーツショップではAMD 780Gを搭載したマザーボードが販売されている。日経WinPC編集部では、AMD 780G搭載マザーボード「TA780G M2+」(BIOSTAR)と「A780GM-A」(ECS)を入手、そのテスト結果を3回にわたってお伝えしてきた。

 AMD 780Gの特徴の1つに「Hybrid CrossFireX」がある。Hybrid CrossFireXは、AMD 780G内部のグラフィックス機能と、特定のAMD製グラフィックスチップを搭載したボードを連携して動かすことで、3D画像の描画性能を引き上げる技術だ。正式発表前に公開されていたAMDのグラフィックスドライバーはAMD 780Gに対応しておらず、Hybrid CrossFireXも使えなかった。今回は、Catalyst 8.3を使って、Hybrid CrossFireXの実力を検証する。

Hybrid CrossFireXは、BIOS設定後にドライバーで有効にする

 検証に先立ち、少し用語を整理しておきたい。日本AMDは、AMD 780Gと外部チップを連携させて動かす技術の名称を「Hybrid Graphics」であるとしていた。ところが正式発表前後に「Hybrid Graphicsは、いくつかあるAMD独自のグラフィックス技術の総合的なブランド」(日本AMD)と位置付けを改めた。具体的には、Hybrid CrossFireXのほか、複数ディスプレイへ出力する「SurroundView」、省電力機能「PowerPlay」、ノートPCで消費電力と描画性能のバランスを変える「PowerXpress」から成る。

 今回テストに使用したパーツは以下の通りだ。CPUとマザーボード、HDD、OSは前回、前々回と全く同じだ。CPUはAMD 780Gの性能がより引き出せることからクアッドコアCPUの「Phenom 9500」を基準にした。ドライバーは特に注記のない限り最新のCatalyst 8.3(ディスプレイドライバーのバージョンは8.471)にしている。AMD 780Gの売りの一つが消費電力の低さであることを考慮して、省電力技術「Cool'n'Quiet」を有効にしている。

【CPU】 Phenom 9500(2.2GHz)、Athlon 64 X2 5000+(2.6GHz)
【マザーボード】 M2A-VM HDMI(ASUSTeK Computer、AMD 690G搭載)、A780GM-A(ECS、AMD 780G搭載)
【メモリー】 DDR2-800 1GB×2(JEDEC準拠)
【HDD】 Barracuda 7200.10 320GB(Seagate Technology)
【グラフィックスボード】 Radeon HD 3450搭載ボード(レファレンス、メモリー256MB)、Radeon HD 3650搭載ボード(Tul、メモリー512MB、HD365-D2-P512D2-SCS)、Radeon HD 2400 PRO(Tul、メモリー256MB、HD24P-CDT-P256D2SCS)
【OS】 Windows Vista Ultimate 32ビット日本語版

 テストに使用したA780GM-AでHybrid CrossFireXを有効にするには、まずBIOSの設定が必要だった。BIOSで「SurroundView」を「Enable」(有効)にする。これで画面設定用ユーティリティーの「Catalyst Control Center」に「CrossFire」の項目が現れるので、有効にする。これでHybrid CrossFireXが使える。

 テストには、Futuremarkのベンチマークソフト「3DMark06」と、DirectX 10対応のアクションゲーム「クライシス完全日本語版」(Crytek、エレクトロニック・アーツ、実勢価格6000円)を使った。3DMark06は1280×1024ドットの標準設定で実行した。クライシスには修正プログラムの「Crysis_Patch_1_1.exe」を適用し、画面周りの設定はすべて「中」、解像度は1280×1024ドットにした。ソフトに同こんされているベンチマーク用のデモのうち「Benchmark_GPU.bat」を実行した。最終的に表示される「Average FPS」(1秒間当たりに描画したフレーム数の平均)のうち、最も良い値を採用した。

 テスト中、グラフィックスボードの挿し替えを何度かしているうちに、「CrossFire」タブが消えてHybrid構成が設定できなくなることがあった。デバイスドライバーの再インストールでも戻らず、BIOS設定を初期化するなど試行錯誤を繰り返したら戻るなどの現象が起こった。原因が個体にあるのか、ソフトウエアとパーツの組み合わせによるものかは追求しきれなかった。

Hybrid構成で性能が1.7倍になった

 まずは3DMark06の結果だ(グラフ1)。グラフ中の「AMD 690G単体(旧ドライバー)」「AMD 780G単体(旧ドライバー)」は、前々回の結果を流用したものでドライバーのバージョンは8.451.0.0と2つ古い。「Intel G35」は参考のために測定したもので、CPUはCore 2 Duo E6550、マザーボードは「P5E-VM HDMI」(ASUSTeK Computer)を使っている。

 E6550は製造プロセスが65nmという前世代のデュアルコアCPU。今回は機材調達の都合で利用しただけで、クアッドコアであるPhenom 9500とは位置付けが異なる製品だ。3DMark06の総合スコアにはCPU関連テストの結果も反映されるため、Intel製のクアッドコアCPUを使った場合はIntel G35の総合スコアが伸びる可能性がある。ただし、2倍、3倍と変わるようなことはない。

 AMD 780Gのグラフィックス機能はPhenomと組み合わせた方が性能が良い。そこで今回は、PhenomとAMD 780Gを組み合わせたときの結果を100%とした相対値で表している。Athlon 64 X2 5000+は参考として、AMD 780G単体とRadeon HD 3450との組み合わせのみ測定した(グラフではかっこ内にAthlonと表記)。

 AMD 780Gは、低価格機向けのグラフィックスチップの前モデル「Radeon HD 2400 PRO」をわずかに上回る性能を示すことが分かる。Intel G35は先に述べた事情を考慮しても性能が低く、AMD 780Gには全く及ばない。Intel G35は2007年秋の発表時点ではDirect3D 10に対応するとの触れ込みだったが、2008年3月上旬現在、IntelはDirect3D 10対応のデバイスドライバーを公開していない。この点でもAMD 780Gに明確なアドバンテージがある。

 Athlon 64 X2 5000+との組み合わせでは、この新デバイスドライバーでAMD 780G単体動作時のスコアがなぜか前回(AMD 780Gに正式対応していないバージョン)よりもわずかに落ちてしまっている。設定を見直し、再度測定したが値はほとんど変わらなかった。

 紫色のグラフがHybrid CrossFireXを適用した結果だ。「Radeon HD 3450単体と比べて1.8倍近く性能が向上する」というAMDのアピールほどは伸びていないが、それでもPhenom利用時は、AMD 780G単体に対して約1.8倍もスコアが向上した。Radeon HD 2400 PROと組み合わせたときもスコアが1.6~1.7倍になる。クライシスを使ったテスト(グラフ2)でも、性能の伸びは鈍るものの効果は確認できた。

 低価格機向けのグラフィックスボードは同じチップを搭載していても製品ごとにコアやメモリーの動作周波数が異なることが多いため一概には言えないが、Hybrid CrossFireXはPhenom利用時のアップグレードの手段としては極めて有効だといえる。

 ただ、Athlon 64 X2 5000+と組み合わせたときは性能があまり伸びない。AMD 780G単体時から1.3倍程度にとどまっており、Phenomとの組み合わせに比べて差がありすぎる印象だ。またPhenom環境でも、Radeon HD 3450の上位クラスのチップである「Radeon HD 3650」を使ったときは3450とのHybrid構成よりもさらに一段上の性能を示す。ちなみに3650では設定ユーティリティーからCrossFireの項目が消えてしまい、Hybrid構成にはできなかった。

有効でも無効でも消費電力はほぼ同じ

 日置電機の「パワーハイテスタ3332」でシステム全体の消費電力も調べた(グラフ3)。グラフは時間による変化で、左端が3DMark06における「HDR/SM3.0」のテストを実行する直前のアイドル状態、右端が終了直後を示している。ボード単体ではなく、あくまでもシステム全体の消費電力であり、低消費電力版のAthlon X2などを利用すれば全体的な消費電力は当然下がる。例えば、AMD 780GにAthlon 64 X2 5000+を組み合わせた状態ならアイドル時でおよそ50Wだった(AMD 780G非対応ドライバーのときより6Wほど下がっている)。

 Radeon HD 3450を単体で動かしても、Hybrid構成にしても、描画時はおおむね違いがない(あっても変動の激しさに紛れてしまうレベル)といってよいだろう。アイドル時はわずかにHybrid構成の方が高い。単体では92.2~92.3Wが連続して計測された一方で、Hybrid構成では92.7~92.8Wが計測されるといった具合だ。このことから、「消費電力を気にしてあえてHybridを無効にする」という設定は意味がなく、使える組み合わせなら有効にしておいた方がよさそうだ。Radeon HD 3650は描画性能が高い分、負荷時の消費電力も3450より高い。アイドル時の差はわずかだ。

 AMD 780Gの3D画像描画性能は、チップセット内蔵の機能としては極めて高い。強力な動画再生支援機能も魅力だ。グラフィックスボードを使わないパーツ構成なら、現時点では最強と言っていいだろう。

 ただ、Hybrid CrossFireXというアップグレード手段が万人にとって有意義かどうかは難しいところだ。アップグレードの効果がはっきりしており、ユニークで意味のあるアプローチであることは間違いないのだが、3D性能を求める人にとっては別の選択肢もあるからだ。Radeon HD 3450搭載ボードは安い製品なら6000円弱。ところが、3650搭載ボードは1万円前後から買える(今回テストした製品は1万1000円程度)。ゲームをある程度快適に動かしたい人だと、差額の5000円をけちらずに最初から3650クラスのボードを買った方がつぶしが効く、と判断するかもしれない。Hybrid CrossFireXは、「3650ほどの性能は不要だがAMD 780Gで物足りない」という人に有用な技術だ。

 今回のテストではAthlon 64 X2で性能が伸びなかった点は気になる。AMD製CPUを使ったリーズナブルなPCを自作するなら、1万円前後のAthlon 64 X2は外せない存在だからだ。初期に登場した製品としてマザーボード(あるいはチップセット)に問題があるのか、デバイスドライバーの熟成が進んでいないのか、それとも本当にAthlonシリーズでは性能が出ないのか、今回は原因を特定できなかった。BIOSやドライバーの更新によって、あるいは別の製品でのテストではAthlonでもより性能が伸びることを期待したい。

・AMDによるHybrid Graphicsの解説ページATI Hybrid Graphics