写真1●ソフトバンクの孫正義社長
写真1●ソフトバンクの孫正義社長
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 「2008年は携帯がインターネット・マシン化する元年になる」――。ソフトバンクの孫正義社長(写真1)は2008年2月7日に開いた同社の第3四半期の決算会見で,繰り返しこのように述べた。孫社長は「今後は携帯を制したものがインターネットを制する。我々はその上でアジアNo.1ネット企業になる」と語り,同社の中長期ビジョンを見せた。

 孫社長の言う「携帯インターネット・マシン」とは,携帯からストレスなくインターネットの多様なコンテンツにアクセスできる環境のこと。「これまでは,通信速度が遅く,画面が小さく,CPUが遅いため,十分な環境がそろっていなかった。それが2008年に入り下り最大3.6Mビット/秒のHSDPAに対応した端末が増え,大画面で高速CPUの機種も増えてきた。まさに携帯インターネット・マシン化元年」(孫社長)。同社が先日春モデルとして発表した「インターネット・マシン SoftBank 922SH」(関連記事)のような端末を念頭においた発言と伺える。

中長期のライバルはグーグル,「ソフトバンクは総合力で有利」

写真2●3.5G以降,携帯電話は音声中心からインターネットマシンへ変化
写真2●3.5G以降,携帯電話は音声中心からインターネットマシンへ変化
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 「米グーグルや米マイクロソフト,米アップルなど,これまでパソコンやネットの世界にいた企業がさかんに携帯のインターネット化を目指している。これからはインターネットの主役はパソコンから携帯電話に変わり,携帯電話は音声からデータ中心に利用法が変わる。携帯電話の世界は,これまでの電話会社中心からインターネット会社中心に変化する」(孫社長,写真2)。

 その上で孫社長は,「中長期的に見ればグーグルが大きなライバルになってくる。我々はアジアを守る。それが世界ナンバーワンネット企業への近道だ」と語る。またソフトバンクが総合力で有利との考えを示した。「ソフトバンクはコンテンツもポータルもインフラも持っている。グーグルは検索とユーチューブなどのコンテンツは持つがインフラは持たない。NTTグループは,インフラは持っているが検索やポータルは弱い。総合力でソフトバンクは有利だ」(孫社長)。

MSの米ヤフー買収にソフトバンクは動くのか?

 孫社長の中長期ビジョンを受けて,会見の質疑応答では米マイクロソフトによる米ヤフーの買収提案(関連記事)に対して,ソフトバンクが動くのかという点に多くの質問が飛んだ。

 米ヤフーとソフトバンクの関係は深い。ソフトバンクが米ヤフーの株式を保有。米ヤフーはソフトバンクが筆頭株主であるヤフー・ジャパンの株式を3分の1保有しているほか,同じくソフトバンクが出資する中国アリババの約4割の株式を保有する。

 「様々な提案が米ヤフーに届いているが,私にもジェリー・ヤン(米ヤフーCEO)にもまだ結論めいた方向がないという状態。米ヤフーが持つヤフー・ジャパンとアリババという2つの資産をどうするのかが,米ヤフーの意思決定の重要な要因になると思う。しかし今のところ結論は見えていない。今後についてはノーコメント」(孫社長)。ソフトバンクが今後,米ヤフーの買収合戦に参戦する可能性については「なんでもありえるが,今のところそういう考えはない」とした。

携帯好調で増収増益,ARPU減も「割賦請求分を合わせれば影響なし」

 同社の2007年度第3四半期の連結決算は,携帯電話事業の好調などにより,2007年4月~12月の累計で,売上高は前年同期比13%増の2兆587億6500万円,営業利益は同31.9%増の2601億8800万円の増収増益となった。

 同日に電気通信事業者協会(TCA)が発表した2008年1月末時点での携帯電話の契約数で,ソフトバンクモバイルは9カ月連続で純増数1位を記録(関連記事)。解約率も「1年前は3%を超えていたが,2007年度の第3四半期では0.88%まで下がっている」(孫社長)という。

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写真3●ソフトバンクモバイルのARPU(ユーザー1人当たりの月間平均利用額)の推移
ホワイトプランを開始した2006年度第4四半期以降減り続けている。
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 一方で事業の直接の収益につながるARPU(ユーザー1人当たりの月間平均利用額)は,ホワイトプランを開始した2006年度の第4四半期以降下がり続けている。2007年度の第3四半期では4520円まで落ち込んだ(写真3)。

 ARPU減少について孫社長は「割賦販売による請求分を加えると5520円となり,決して悪い数字ではない。2006年度の第4四半期を底に回復傾向にある」と回答。さらに「客単価を上げるよりもまずは契約数を増やすのが我々の戦略。その上で携帯のインターネット・マシン化によりデータの利用を増やす。現在はすべてのユーザーを含めたデータARPUは1000円ちょっとであり,まだまだデータARPUを伸ばす余地はたくさんある」と,携帯電話事業の将来性について説明した。

 ただ将来的に孫社長が語るような「携帯インターネット・マシン化」の世界が実現すれば,データARPUは定額プランの上限へと限りなく近づく。そうなると通信事業として大きな収益増は望めなくなる。孫社長は「そうなった場合,ショッピング・サービスやオークションの請求代行などのサービスが考えられる。併せてバックボーンの完全IP化によって投資コストを抑え,パケット単価を下げる努力を続ける」と説明。携帯がインターネット化した後のビジネス展望も述べた。