コンピュータ・クラウドや様々なデータ,オンライン広告が,OSに代わる新しいプラットフォームになった「Web 2.0」時代。現在,このプラットフォームでは,猛烈な寡占化が進んでいる。米Microsoftによる米Yahoo!への買収提案は,オンライン・サービスのプラットフォームを巡る覇権争いの最終決戦として位置付けられるだろう。

 2000年に起きたドット・コム・バブル崩壊後に,一時は途絶えたかに見えたネット・ベンチャーの起業は,2004年を境に急増した。それらベンチャー企業を支えていたのは,ドット・コム・バブル期のようなIPO(株式公開)ではなく,低コストで使える「コンピュータ・クラウド」と,ユーザーが生み出す「データ」,そしてこれらを収入に変える「オンライン広告」であった。

 今,これらの3つからなるプラットフォームの寡占が,急速に進んでいる。ページ最後のは,Google,Microsoft,Yahoo!の3社におけるオンライン分野の動向をまとめたものだ。この表を見れば,Web 2.0が顕在化した2004年以降,3社が猛烈にWeb企業買収を行っていることが分かるだろう。

Googleの独走を支えているのも実は買収

 またこの表からは,Googleの独走を支えているのも,実は企業買収だったことが分かる。核となる検索技術以外は,Googleも企業買収によってイノベーションを進めている。

 例えば,同社が広告主向けに提供しているアクセス解析サービス「Google Analytics」は,アクセス解析ソフトの有力ベンダーである米Urchinを買収して実装したものだ。2007年11月に発表して大きな話題を呼んだ携帯電話機向けプラットフォームの「Android」や,オンライン・サービス事業者が収入面で大きな頼りにしている埋め込み型広告サービスの「Adsence」も,元々は企業買収によって手に入れた技術であった。

 企業買収を通じて独占を拡大するGoogleに追従するためには,追いかける側も企業買収を加速するしかない。自身が買収しなければ,Googleに買収されてしまうかもしれないからだ。

 こうしてGoogle,Microsoft,Yahoo!が企業買収を加速させた結果,Web 2.0のプラットフォームの寡占は一気に進行した。主要な検索エンジン技術は,もはやGoogle,Microsoft,Yahoo!の3社にしか存在せず,キーワード広告だけでなくディスプレイ広告(バナー広告)も,この3社のものになった。ユーザー・データの宝庫であるソーシャル・ネットワーキング・サービスや写真共有サービス,Webメール・サービスも,この3社に集約されつつある。

 Microsoftはなぜ,Yahoo!を買収しようとしているのか。それは,買収先の選択肢がもはや,Yahoo!しか無くなってしまったからかもしれない。

表●米Google,米Microsoft,米Yahoo!が行ったオンライン分野での主な活動(赤色は買収・出資を伴う活動)
  Googleの動き Microsoftの動き Yahoo!の動き
2008年2月   ■米Yahoo!へ買収提案  
1月 ■NTTドコモと提携 ■検索技術のノルウェーFast Search&Transferに買収提案 ■AT&Tと広告提携拡大
■Open IDに対応
2007年12月   ■「Office Live Workspace」開始
■オンライン地図の英Multimapを買収
■携帯SNSの米WebFives買収
■ヤフー日本法人が米eBayと提携
11月 ■携帯向けプラットフォーム「Android」公開
■SNSアプリ開発API「OpenSocial」公開
■モバイル音楽サービス「Musiwave」買収
■「Windows Live Suite」提供開始
 
10月 ■携帯サービスのフィンランドJaiku買収
■携帯向けSNSの米Zingku買収
■マッシュアップ・サービス「Popfly」開始
■ショッピング検索エンジン米Jellyfish.com買収
■Facebookに2億4000万ドル出資
 
9月     ■コンテンツ・アグリゲータの「BuzzTracker.com」買収
■オンライン広告の米BlueLithium買収
■Webグループウエア「Zimbra」買収
8月 ■Google Packに「Star Office」を追加 ■「Windows Live SkyDrive」開始  
7月 ■高解像度航空写真の米ImageAmerica買収
■メール・セキュリティの米Postini買収
■音声通信管理サービスの米GrandCentral Communications買収
■広告マーケットプレイス米AdECN買収
■米Diggと広告配信で提携
■新広告プラットフォーム「SmartAds」開始
6月 ■オンライン・スライドショー作成ソフトの米Zenter買収
■RSSフィード管理の米FeedBurner買収

Salesforce.comと提携
   
5月 ■「Google Gears」を公開
■マルウェア対策の米GreenBorderを買収
■写真共有のスペインPanoramio買収
■ディスプレイ広告の米aQuantive買収
■携帯広告仏ScreenTonic買収
 
4月 ■ビデオ会議のスウェーデンMarratech買収
■米大手ラジオ放送局Clear Channel Radioと広告配信提携
■ディスプレイ広告の米DoubleClick買収で合意
  ■広告オークションの米Right Media買収
3月 ■ゲーム内広告の米Adscapeを買収
■統計データ表示の「Trendalyzer」を買収
■携帯向け音声検索の米Tellme Networks買収  
2月   ■ヘルス関連検索の米Medstory買収
■「Soapbox on MSN Video」を公開
 
1月 ■中国China Mobileと提携   ■ブログSNS「MyBlogLog」買収
2006年12月 ■インターネット地図のスイスEndoxon買収
■新聞に出稿できる「Google Print Ads」開始
■Yahoo!に対して買収を打診(断念)  
11月   ■「Live.com」スタート ■コンテスト・サイト「Bix」買収
10月 ■Wikiソフトの米JotSpot買収
■YouTubeを買収

■Webオフィス・ソフト「Google Docs」を公開
  ■オンライン広告の米AdInterax買収
■米国新聞社と広告組織「Newspaper Consortium」立ち上げ
■日本で「Yahoo!ケータイ」開始
9月     ■Webビデオ編集「Jumpcut」買収
8月 ■画像認識ソフトの米Neven Vision買収    
5月 ■KDDIと提携 ■地図技術の米Vexcel買収
■広告プラットフォーム「adCenter」開始
 
3月 ■3Dデザイン・ソフトの「SketchUp」買収 ■「Windows Live Search」開始 ■ソフトバンクがボーダフォン買収
2月   ■携帯向け検索の仏MotionBridge買収
■「Office Live」開始
 
1月 ■携帯向けWebブラウザの米Reqwireless買収
■「Google Pack」公開
  ■携帯向けプラットフォーム「Yahoo! Go」発表
2005年12月 ■米AOLに5%出資 ■「Live Search Local」開始 ■ソーシャル・ブックマーク「del.icio.us」買収
11月 ■「Google Analytics」公開 ■「Windows Live」「Office Live」構想発表
■組織改編でMSN部門をWindows部門に統合
■ソーシャル・カレンダー「Upcoming.org」買収
8月 ■携帯向けOS「Android」買収
■「Google Talk」開始
   
7月 ■検索エンジン技術の米Akwan Information Technologiesを買収   ■ウィジェットの米Konfabulator買収
5月 ■携帯向けSNS「dodgeball.com」買収
■Web解析ソフトの米Urchin買収
■「Google Earth」公開
   
3月     ■写真共有の「flickr」買収
2月 ■「Google Maps」公開    
2004年10月 ■地図技術の米Keyhole買収
■「Google Desktop」公開
   
8月 ■NASDAQに上場    
7月 ■「Picasa」買収   ■AjaxのWebメール米Oddpost買収
4月 ■「gmail」公開    
2003年7月     ■キーワード広告の米Overture買収
4月 ■米Applied Semantic買収で「Adsence」開始    
2月 ■「Blogger」を買収    
2002年12月     ■検索技術の米Inktomi買収
4月 ■「Google News」を米国で開始    
2001年9月     ■日本で「Yahoo! BB」開始
8月 ■日本法人設立    
2000年秋 ■「Adwards」を開始    
6月     ■米eGroups買収
1999年1月     ■米GeoCities買収
1998年9月 ■Google設立    
1997年12月   ■「Hotmail」買収  
3月     ■Webメールの米Four11買収,Yahoo! Mailに
1996年1月     ■ヤフー日本法人設立
1995年8月   ■MSN開始  
4月     ■Yahoo!設立