2007年は、「白い恋人」の石屋製菓や、「赤福餅」の赤福など、菓子業界で表示にかかわる不祥事が相次いだ。

 業界団体関係者に聞くと、法制度の周知不足や、製造年月日など表示内容への責任感の希薄さなど、菓子業界のモラルの低さを反省する機運は確かに高まっている。

 だが、その一方で、“本来は長期保存が可能なお菓子なのに、流通サイドの要請でやみくもに鮮度にこだわり過ぎているのでは”と、新鮮さを強調する表示を見直す空気も強まってきているという。

 農林水産省と業界団体である全日本菓子協会(東京・港)は、2007年後半に菓子業界の「社内総点検」を実施。年間売上高10億円以上の企業約300社について、調査結果を12月にまとめた。

 「賞味期限・消費期限を過ぎた製品(返品を含む)の取り扱い」については、「廃棄している」が95.2%だった。

 事故対応マニュアルが未整備であるなど、「品質管理及びコンプライアンス体制」について「改善点が確認された」企業は27.7%あった。この調査結果について、全日本菓子協会の奥野和夫・専務理事は、「改善点が見つかったと答えた企業がこれだけあったのはむしろ前向きに取り組んでいる証拠だと考えたい。問題視すべきは、『意図的な改ざん』と『意図しない誤り』だ」と話す。

 いったん印字した賞味期限を先の日付に改ざんした石屋製菓や、新鮮さをアピールするために製造日の翌日の日付を製造日として印字するなどしていた赤福などのケースで、行政処分が下ったこと自体は、当然のことだと受け止められている。こうした改ざん行為については「消費者に誤認を与える明確な法令違反」と奥野専務理事はモラルの低さを批判する。

 表示ルールなどの周知が徹底していないことも同協会の悩みの種だ。「零細事業所では、『JAS法』などを熟知せずに間違った表示をしている事案がかなりある」(奥野専務理事)。同氏によれば、町の和菓子屋など製造小売りをしている事業所は約5万、製造だけをしている事業所ですら約1万6000もあり、周知徹底が図られているとは言い難い状況だという。

 例えばJAS法では、原材料を重量順で表示しなければならない決まりになっている。「きなこ餅」なら、きなこよりも砂糖を先に表示するはずなのだが、「逆になっている例が少なくない」(奥野専務理事)。そこで協会では、こうした初歩的な知識不足を解消するべく、ケーススタディーで原材料表示法を学ぶといった研修会の開催に力を入れていく方針だ。

 だが、その一方で菓子業界では、“消費者や流通サイドが製造年月日や賞味期限に過敏になり過ぎていることも表示問題の背景だ”と困惑する声が水面下で強まっているのだという。

 「菓子は水分を多く含む生菓子など一部を除けば、日持ちするものが多い。ガムなどは腐らないのでそもそも賞味期限の表示義務がない。チョコレートなどは製造から1年以上は日持ちする。だが、安全試験上は1年以上持つはずの菓子の賞味期限が4カ月ぐらいに設定されている例も少なくない」と奥野専務理事は話す。

 製造年月日をいったん明示しておきながらその日付を偽ることは違法だ。だが、そもそも菓子に製造年月日を表示することは、実は義務ではない

 “新鮮な”お菓子を求める消費者や流通業の声に応えた結果として、本来は義務ではない製造年月日を表示したり賞味期限を早めに表示してきたという受け身の意識が菓子メーカー側にはある。そうした姿勢ゆえに表示内容への責任感が低いという事情が、相次ぐ表示偽装問題の深層に見え隠れする。

 奥野専務理事は、「食べられるものは大事に食べるという啓もうも図らなければ、廃棄されるお菓子がどんどん増えていく。お菓子は賞味期限が迫っていてもさほど品質の劣化はなくおいしく食べられるはずだ」と問題提起する。

 環境問題を背景に廃棄物を減らすことが叫ばれてもいるのに、日持ちするはずのお菓子が“新鮮でない”との理由で流通サイドで廃棄されてしまうことは、社会的にも望ましいことではないだろう。この問題について菓子業界と流通業界がきちんと議論して納得し合わない限り、業界をあげてお菓子の表示偽装をなくそうという活動は真剣さを欠いたままになる懸念がありそうだ。