地上アナログ放送の終了によって空くVHF帯を利用した放送の実用化に向けた検討を進めている「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」の第7回会合が2008年2月4日に開催された。懇談会ではこれまでヒアリングを行うなどの活動を行ってきたが,今回の会合からいよいよ制度や技術に関する具体的な議論を始めた。今回は,制度論に関する議論を中心に,各構成員からの発言を求めた。今回具体的な意見を述べたのが吉田望氏(ノゾムドットネット代表)と,伊東晋氏(東京理科大学理工学部教授),黒川和美氏(法政大学経済学部教授)らである。

 吉田望委員は,「周波数ごとに割り振ると,技術の革新についていかないことが懸念される」として,プラットフォーム的な考えを取り入れて新しい仕組みが導入できる体制とすることが必要ではないかと指摘した。なお,これは必ずしもハード/ソフトの分離を意味するものではないとした。さらに吉田氏は,ラジオ事業者にデジタル化の道を残すべきとした。「そうなるとVHFローバンドがデジタル・ラジオでVHFハイバンドがマルチメディア放送というのがすぐに浮かぶが,その中でも統計多重の考え方を入れるなどして新しい事業を行えるようにした方がいい」との考えを示した。また地域に密着した広告の集稿に取り組むコミュニティ放送に高い関心を示し,「産業的に今後大幅に拡大するのか疑問もあるが,デジタル・ラジオの中で取り上げていくことは必要」と述べた。

 伊東晋氏は,VHFローバンドは,「コミュニティ放送とデジタル・ラジオ」,VHFハイバンドには「メルチメディア放送」という大枠の考えを示した。VHFローバンドは県域放送を基本として,位置づけは現行サービスに見合うものとした。なお,コミュニティ放送もデジタル放送を想定しているようだ。一方のVHFハイバンドは映像を中心にしたものとして「全国放送」で「自由度の高いもの」とするといった区分けである。ただし,放送である以上は,いずれも一定のしばり(あまねく受信に関わる努力義務やマスメディア集中排除の原則,番組規律など)は必要とした。候補に挙っている技術仕様がいずれも変調方式にOFDMを採用していることにも振れて,周波数有効利用の観点から「連結送信などして,送信所は一箇所にまとめる必要がある」と指摘した。そうなると,いわゆるハード/ソフトの分離案とも考えられそうだが,「手法はいろいろある」として必ずしも分離には縛られないとした。

 技術基準を統一すべきかどうか,という点について意見を求められた鈴木博氏(東京工業大学大学院教授)は,あくまで一般論と前置きした上で,「複数の技術として,相手がいた方が工夫を加える」など複数技術が競う形にすることの方が一定の有用性があるとの考えを示した。伊東晋氏は,「携帯電話事業は複数の規格が並存するが事業者間で相互接続されていればよい。放送は違うのでは」との考えを示した。さらに,ISDB-Tについて現状海外に売り込みをかけている状況も説明するなどしたが,「かといって他方式を締め出す結果になっていいのか・・・」ともいい,かなり迷っている様子が伺えた。

 黒川氏は,「全国誌は売れずに,地域情報誌の市場が大きく伸びている」などの例を紹介し,「中核都市ごとの放送として,地域密着とする」などの持論を展開した。たとえば,関東地域で放送エリアを半径10km程度としても各100万人規模となる放送事業をエリアが重ならない形で,25カ所で展開できることなどを紹介した。

 北俊一氏(野村総合研究所上級コンサルタント)は「ゴール(つまり制度論などを議論するときにどういう成果を得ることを第一優先にするのかの目標)を明確にすることが重要」と強調した。その上で,「複数のゴールを設けてそれぞれ制度はどうあるべきか議論し,それをぶつけ合う形もあるのではないか」とした。