写真●シスコシステムズのエザード・オーバービーク社長
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 「さまざまなアプリケーション,経済力,資本,そして意志が日本にはある。これを生かすには,ネットワークを基盤とした新しい経営を目指すべき」──最終日を迎えた「ITpro EXPO 2008」の特別講演で,シスコシステムズのエザード・オーバービーク社長兼CEOは,自信を失いかけた日本の企業にエールを送るかのように,欠けたピースを埋める「ヒューマンネットワーク」が経営意識とIT技術の両面で効果的と呼びかけた。

 「The Network As The Platform ~ヒューマンネットワークがもたらすビジネスの変革~」と題した特別講演に登壇したオーバービーク氏が力説したのは,日本の潜在能力を生かすためには,人と人とのコミュニケーションを,距離や時間の制約から解き放つ「ヒューマンネットワーク」が不可欠という主張。そして,そのプラットフォームとなるネットワークにインテリジェントな機能を持たせることで,Web 2.0に代表される市場変化への即応とコスト削減を実現できるという。

ユニファイド・コミュニケーションは日本でこそ必要

 ヒューマンネットワークを構成する要素となるのは,高画質テレビ会議のテレプレゼンスやユニファイド・コミュニケーションなど。特に後者のユニファイド・コミュニケーションは,個人対個人でビジネスが進む欧米に対して,部署対部署および縦割りのビジネスが中心の日本ではなかなか浸透しないコンセプトだ。しかしそうした事情を熟知しているかのように,「日本の潜在能力を生かすには,ヒューマンネットワークおよびそれを実現するネットワーク基盤(二つめのネットワーク)」が不可欠と説く。

 「商品の細分化が進み,消費者も価値あるいは低価格を求める二極化が進んでいる」という世界的な市場の変化を背景として語ったうえで,その市場に対峙する日本を「外国人としての目で見ると,素晴らしいチャンスが日本にはある」と評価。しかしそのチャンスを生かすには,「経営のマインド,コミュニケーションの進化が必要」とした。

 「日本の経済力は世界2位。犯罪発生率も世界一低い。清潔で安全で経済大国だ。ネットワークのインフラも,ブロードバンドの普及率は目を見張るものがあり,さらにNGNが産声を上げようとしている」という恵まれた環境を背景にビジネスの変革を主体的に推し進めれば,「マーケットの動きに合わせて一つの組織がさまざまな性格を併せ持てる,いわば仮想化された組織を実現できる」とした。

ネットワーク基盤への投資がコスト削減につながる

 導入すべき技術として紹介したのは,同社のユニファイド・コミュニケーションとテレプレゼンスによるコラボレーション・システムと,柔軟な構成変更を支援するネットワークをプラットフォームとするデータセンター。前者はコミュニケーションの円滑化や出張や移動の機会が減ることによるコスト削減を,後者は2008年1月28日に発表したばかりのデータセンター向け統合スイッチ「Nexus 7000」による仮想化支援とミドルウエアおよびシステム統合基盤の簡素化によるコスト削減をメリットとして挙げた。「ネットワークをプラットフォームとすることで,ミドルウエアやシステム統合のコストを別にまわせる」(オーバービーク氏)。

 さらに将来の技術として,ホログラムによるテレプレゼンス・システムのデモをビデオで上映。「ユーザーにとってのシスコは,スイッチとルーターのベンダーというイメージがあるだろうが,この5年間で大きく姿を変えた。CATV機器大手の米サイエンスティフィック・アトランタを買収したのはその一例だ。セキュリティ機器の拡充も進めている」とし,ホームネットワークやミドルウエアの領域に進出する新生シスコを印象づけた。

 2007年11月にシスコ日本法人の社長に就任したオーバービーク氏。「日本のシスコは個人や企業の夢を実現するための強い味方になれる」と,会場を埋めるITプロ達に新生シスコをアピールして講演を締めくくった。