写真1●モバイル・キャリアの法人部門のキーパーソンが一同に介した,ICTパネル討論会「エンタープライズ・モバイル:2008年我が社の戦略」
写真1●モバイル・キャリアの法人部門のキーパーソンが一同に介した,ICTパネル討論会「エンタープライズ・モバイル:2008年我が社の戦略」
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 増え続ける企業のモバイルに対するニーズについて,2008年モバイル・キャリアはどのように応えていくのか――。こうした疑問に答えるべく,東京・ビッグサイトで開催している展示会「ITpro EXPO 2008」にて,ICTパネル討論会「エンタープライズ・モバイル:2008年我が社の戦略」が開催された。

 日経コミュニケーションの松本敏明編集長の司会のもと,ウィルコム,NTTドコモ,KDDI,ソフトバンクモバイルの4社から法人分野のキーパーソンが一同に集結(写真1)。熱心な聴衆で満員となった会場では,未発表のネタが連発するなど,驚きに満ちた1時間となった。

ドコモが未発表の法人向け端末披露,ウィルコムは新内線システムに注力

写真2●NTTドコモの三木茂・法人ビジネス戦略部 部長
写真2●NTTドコモの三木茂・法人ビジネス戦略部 部長
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写真3●ウィルコムの青木伸大・経営企画本部 兼 営業統括 副本部長
写真3●ウィルコムの青木伸大・経営企画本部 兼 営業統括 副本部長
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 まずは各社それぞれが,2008年の法人分野における戦略や自社の取り組みを解説した。

 NTTドコモの三木茂・法人ビジネス戦略部 部長(写真2)は,法人向けの未発表の新端末や,発表直後のサービスを紹介するなど,盛りだくさんの内容。近々発表を予定しているという「新ビジネスセキュリティケータイ」を初披露した。企業の管理者が遠隔で機能を制限したり,端末を初期化することが可能。情報の持ち出しを防ぐため,外部メモリやFeliCaの通信機能,USB通信機能を停止しているほか,指紋認証機能なども搭載しているという。三木部長は「905iシリーズはかなり好評だが,セキュリティを重視した端末や,スマートフォン,通信モジュールなど,法人向けに幅広いニーズに応える端末も出していく」と語った。

 またサービス面でも,昨日発表したばかりの1台の端末で個人名義と法人名義の2つの電話番号を使い分けられるようになった「2in1」機能や(関連記事),本日発表したFeliCa機能を使ってオフィスの入退室やパソコンのログインができる「カイスマート」などを次々に披露。「ドコモ2.0」のキャッチフレーズのもとで,一歩先を行くドコモの取り組みを強調した。

 ウィルコムの青木伸大・経営企画本部 兼 営業統括 副本部長(写真3)は,「企業のモバイルに対するニーズはコミュニケーションの円滑化と業務システムの改善の2点に尽きる」と説明。コミュニケーションの円滑化については,2007年秋に発表した,内線端末として利用しているPHSを外出先でもワンナンバーで利用できる「W-VPN」(関連記事)に力を入れると語った。

 もう一方の業務システムの改善については,「W-ZERO3をはじめとしたスマートフォンが解決手段となる」と説明。企業が求める「定額料金」に応えるPHSと,2009年に開始する次世代PHSを使って,企業のニーズに応えていきたいと語った。

モバイルSaaSに注力するKDDI,ネットの良さを取り入れるソフトバンク

図のタイトル
写真4●KDDIの山本泰英ソリューション事業統轄本部 FMC事業本部 FMC推進本部長
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写真5●ソフトバンクモバイルの白石美成法人事業本部 法人マーケティング統括部 副統括部長
写真5●ソフトバンクモバイルの白石美成法人事業本部 法人マーケティング統括部 副統括部長
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 KDDIの山本泰英ソリューション事業統轄本部 FMC事業本部 FMC推進本部長(写真4)は,まずマクロの視点から法人のモバイル市場の概観について説明した。日本全体で企業が150万社,3150万人の雇用者がいる中で「モバイルの法人市場は,約850万回線はあるはず」との試算を披露。特に中小規模の企業に潜在的な需要があるとし,今後はこの層に対して力を入れるとした。

 企業の業務スタイルが変化する中で,「今後はモバイルでもSaaS的なトレンドが進む」(山本本部長)との見方を示し,短期間でソリューションを導入できるモバイルの良さと,ダイナミックにアプリケーションを改良できるSaaSを組み合わせたサービスを提供していきたいと説明した。

 ソフトバンクモバイルの白石美成・法人事業本部 法人マーケティング統括部 副統括部長(写真5)は,「モバイル・ビジネスの分野にもインターネットの良さを取り込んでいきたい」という同社の基本戦略を披露。その中から,本日から受け付けを開始したという,携帯電話のインタフェースを企業専用にカスタマイズできるサービス「Bizフェイス」(関連記事)を紹介した。

 白石副統括部長は,ソフトバンクモバイルの携帯に「Y!ボタン」を付けたところ,携帯からYahoo!へのアクセスが66倍になったエピソードを披露。企業の使い方に合わせてメニューをカスタマイズできるBizフェイスのメリットを強調した。

KDDIのスマートフォンは2008年度下半期に登場

 後半はキーワードに沿って各担当者が討論する形となった。まず松本編集長から2008年の法人向けのモバイル市場の注目ポイントについて疑問が投げかけられた。

 ウィルコムの青木副本部長が「企業によるスマートフォンの活用が加速する年になるのではないか」と回答,NTTドコモの三木部長も「スマートフォンが新たな法人ユーザーを獲得しつつある」と答えるなど,企業へのスマートフォンの本格普及が話題に上がった。そんな中,4社の中で唯一スマートフォンを発売していないKDDIは「スマートフォンを出すか出さないかと言えば出す。2008年度の下半期には出していきたい」(KDDIの山本本部長)と回答。同社のスマートフォン登場時期が初めて明らかになった。

 続いて,モバイルの業務システムへの活用について各担当者が質問に答えた。NTTドコモの三木部長は「端末に備わっているBluetooth機能を用いて,バーコードリーダーを使うといった利用方法が今後は伸びていくだろう」と回答。ソフトバンクモバイルの白石副統括部長は,「M2M向けの通信モジュール提供を本格的に展開していきたい。今年は特に車両の動態監視用途と,決済端末など汎用通信ユニット向けに注力していく」と語った。

 一方のウィルコムとKDDIは,SaaS的なアプローチに力を入れると説明。KDDIの山本本部長は「SaaSはパソコンが対象で終わってしまうことが多いが,モバイルも含めて利用する形を取れば,SaaS自体のアプリケーションの改良もより一層進む。よりパワフルなソリューションになる」と付け加えた。

 最後に内線ソリューションの考え方について,各社に質問が投げかけられた。

 ウィルコムの青木副本部長は,「W-VPNは評判が良いので,今年は販売に力を入れていきたい。まだ対応機種が少なく対応PBXにも制限があるが,こうした制限が無くなるよう改良を加えていく」とした。NTTドコモの三木部長は「FOMA/無線LANデュアル端末を使うPASSAGE DUPLEは,利用企業が1000社を超えるなどだいぶ広まってきた。このほか通常のFOMA端末を使って内線通話を実現できるOFFICEEDも,今後,機能追加を考えている。企業向けの内線ソリューションは確実にマーケットが伸びる」との考えを示した。

 KDDIの山本本部長は「内線ソリューションには,拠点内,拠点間,拠点外と,様々なシーンが考えられる。ユーザーのニーズに応える形で,サービスを展開していく」と語った。ソフトバンクモバイルの白石副統括部長は,無線LANと携帯電話のデュアル端末を使い,アバイアと提携して展開しているサービスを引き合いに出しながら,「ワンナンバーを使ってユーザーに内線と外線の切り替えを意識させず,企業の業務の効率化のニーズに応えていきたい」と説明した。