写真1●東京大学大学院教授の松島克守氏(右)とアクセンチュア エグゼクティブ・パートナーの沼畑幸二氏(中央)。左はモデレータの吉田琢也ITpro副編集長
写真1●東京大学大学院教授の松島克守氏(右)とアクセンチュア エグゼクティブ・パートナーの沼畑幸二氏(中央)。左はモデレータの吉田琢也ITpro副編集長
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写真2●ハードウエア資源,サービス,デスクトップ・アプリケーションなどがクラウド・コンピューティングで提供される
写真2●ハードウエア資源,サービス,デスクトップ・アプリケーションなどがクラウド・コンピューティングで提供される
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 「ITリーダーは,会社を強くする企業内SaaSの構築に今すぐ着手せよ」。2008年1月31日,東京ビッグサイトで開催中の「ITpro EXPO 2008」において,「SaaS/グローバルソーシングの行方」と題し,東京大学大学院教授の松島克守氏とアクセンチュア エグゼクティブ・パートナーの沼畑幸二氏が対談した(写真1)。モデレータはITproの吉田琢也副編集長。

 冒頭にアクセンチュアの沼畑氏が,クラウド・コンピューティングという考え方が今後のシステム開発には求められると指摘(写真2)。「ネット(雲:クラウド)上にある様々なサービスを,そのありかを気にすることなく利用できるようになる。これを使いこなすことがビジネスイノベーションの鍵になる」(同氏)。

 例えば,米GoogleのSaaS型アプリケーション・サービス「Google Apps」を利用すれば,メールやファイル管理などのコストを劇的に下げることができる。また,米Amazonや米eBayなど,伝統的なIT企業ではない会社が,自社のサービス・インフラを社外に提供し始めている。ビジネスプロセスを補完するために,こうしたサービスを活用しない手はないという。

 また,アクセンチュアがCIO(最高情報責任者)を対象に実施した調査によると,IT予算のうち50%以上が会計や人事などの管理業務や運用に費やされている。顧客サービスや研究開発などの戦略投資に振り向けられる予算は2割に満たないという。

 「こうした状況は本末転倒。本来は,カスタマサービスを向上させるシステムに最も投資すべきであり,しかも導入までのスピードが重要だ。SaaSを活用すれば,コスト削減あるいは競争力強化のために必要なシステムを,短期間に低コストで導入できる」と,松島教授はSaaSを活用するメリットについて語る。

 沼畑氏は松島教授の意見に同調しつつ,「これからは企業内SaaSを構築することが,ITリーダーの課題になるだろう」と新たな問題を提起する。日本企業は業務部門が縦割りでITガバナンスが効いておらず,IT資産が分散している。複数の事業会社がそれぞれ自前の会計システムや人事システムを開発,運用しているところも多い。「こうした無駄をなくすためには,会計などの基幹系プロセスを事業会社間で共有するサービス,すなわち企業内SaaSとして構築すれば,IT予算を大幅に削減できる可能性がある」(沼畑氏)。

 続いて両氏は,システム開発の現場に広がりつつあるグローバルソーシングについて言及した。「中国やインドにはネット系の最先端テクノロジを使いこなす技術者が日本よりもたくさんいる。これは技術者の能力ではなく,マインドの問題。グローバルソーシングの焦点はもはやコストの問題ではなく,優秀な技術者の確保にある」と松島教授は話す。「開発拠点の地域性という視点ではなく,グローバルな視点でプロセスの標準化や人材マネジメントに取り組むべきだ」(沼畑氏)。

 最後に両氏は,企業のシステム開発を主導するITリーダーに求められる資質について述べた。まず,新しいテクノロジがどのようなビジネス・イノベーションを起こすのかを見極める洞察力。サプライヤなどの社外パートナを含めたビジネス・プロセスをデザインする力。企業戦略とITの現状とのギャップを埋める提案力。そしてグローバル・リソースの活用力である。

 「常にシステム開発のフロントランナーであり続け,経営のイノベーションを推進する原動力になろう」と松島教授が呼びかけると,会場から拍手が起こった。