写真●NTTデータの山下徹社長
写真●NTTデータの山下徹社長
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 「世の中が変化するスピードが速くなり、非連続になってきている。その変化に対応するにはITをテコにした『変革』が求められている」──。NTTデータの山下徹社長は1月31日、東京ビッグサイトで開催中の「ITpro EXPO 2008」の特別講演でこう述べ、変革におけるITの重要性を繰り返し強調した(写真)。

 山下社長はまず、市場環境が変化する速度が今までに増して速くなってきていると指摘。こうした環境の変化を受け身でとらえず、「むしろチャンスに変え、変革につなげていくべきだ」と述べた。その変革を起こすために重要なツールが、ITなのだという。

 ITによる変革を起こすために重要なのは、「ITありきではなく、顧客の目線で業務改革を進めること」と山下社長は説く。ここで言う顧客とは、システムを発注する顧客企業ではなく、顧客の顧客、つまり消費者のことを指す。企業が改革を進める際に現場から寄せられる提案の多くは、既存の業務や組織の枠組みにとどまるという。そうした固定観念や組織の枠を越え、消費者の立場で捉え直すべきというのが、山下社長の考えだ。

 NTTデータの顧客であるりそな銀行の場合、来店客が伝票を書き、印鑑を押し、さらに手続きの順番を待たされるという「従来の銀行では当たり前だった」(山下社長)ことを否定することから改革が始まったのだという。そのために業務プロセスを「見える化」して見直した結果、行員がカウンターの外側で来店客を迎え、来店客と一緒に端末を操作して手続きをサポートする仕組みに改めた。その流れに沿ってシステムを構築した結果、来店客の待ち時間が減るなどサービス向上につながったうえ、業務が効率化されて人員を大幅に削減できたのだという。

 顧客目線の業務改革と同時に、企業が変化のスピードに対応するには「既存のインフラやソフトウエアなどを活用することも考えるべき」と山下社長は指摘する。日本企業は一般的にシステムをゼロから作り込むことが多いが、パッケージソフトやSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の活用も検討すべきだというのだ。事実、日本郵政の郵便局会社にNTTデータが導入したシステムでは、米セールスフォース・ドットコムのSaaSを活用することで短期導入を実現した。山下社長は「このようなSaaSを積極的に活用する手法も、今後は増えていくはずだ」と見る。

 そのために重要なのが、「ITで何を変革すべきなのかを見極めること」と山下社長は言う。既存の仕組みを流用するということは、他社も同じことを真似できるということでもある。そこで自社の強みを見極め、システムのどの部分を作り込むのか明確にする必要があるという意味だ。山下社長は「ITの導入を考える企業は独自のやり方に固執せず、割り切るべきところは割り切り、あるものを積極的に活用する意識も必要だ」と説く。

 また山下社長は、企業のIT投資の7割程度が現行システムの維持管理コストに充てられているとの調査結果を紹介。「仮想化技術などを活用してシステムの効率化を進め、ITが持つ『革新』という本来の強みを生かすためにコストをかけるべきだ」と述べ、「攻めのIT投資」に企業が踏み切ることこそが変革につながることを強調した。

■変更履歴
記事掲載当初,「日本郵政の郵便事業会社にNTTデータが導入したシステム」としていましたが,正しくは「日本郵政の郵便局会社にNTTデータが導入したシステム」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/02/01 15:45]