写真●日本ヒューレット・パッカードの小出伸一代表取締役社長執行役員
写真●日本ヒューレット・パッカードの小出伸一代表取締役社長執行役員
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 「変化に対応するためのIT」から,「自らトランスフォーメーション(変革)をリードするIT」を目指すべき――。日本ヒューレット・パッカード(HP)の小出伸一代表取締役社長執行役員(写真)は2008年1月30日,東京ビッグサイトで開催中の「ITpro EXPO 2008」の特別講演でこの言葉を繰り返し強調した。HP自身がワールドワイドで進めているトランスフォーメーションの経験を基に,これからのITのあり方を示唆した。

 米HPは今,同社が「Free Up Capital」と呼ぶ手法でIT主導の成長戦略を推進している。Free Up Capitalとは,「使える資金を捻出する」といった意味である。(1)徹底した経営効率化によってコストを劇的に削減し,(2)捻出した資金を成長性がある戦略分野に再投資する。その結果として(3)売り上げを伸ばす,という手法だ。特に効率化については,「単なる業務の改善ではなく,財務基盤,資本基盤を効率化するほどの変革が必要になる」と小出氏は説く。

 このFree Up Capital成長戦略を進める中で,04年に799億ドルだった同社の売上高は07年に1043億ドルとなり,年平均で10%近い成長を遂げた。純利益も,04年の34.9億ドルから07年の72.6億ドルに倍増した。一方,「この間,従業員は年率3%ほどしか増えていない」(小出氏)として,HPの経営が効率化していることを強調した。

 170カ国に拠点を持つHPは,業務をグローバルで共通化したり,データセンターや業務システムを集約したりすることで経営の効率化を進めている。スケールメリットを追求する戦略である。「人事や経理の業務は,一般に各国の法律などが違うため共通化しにくいと考えられていたが,実際は違った。ITを使って業務プロセスの標準化を進めたところ,人事業務の95%,経理業務の83%をグローバルで共通化できた」(小出氏)。

 このように共通化した業務は,「マレーシアやインドなどの低コスト地域に設置した業務センターに移管して,さらなるコスト削減を図っている。コールセンター業務やソフトウエア開発についても同様に,地域(言語)別にインド,中国,コスタリカなどに集約している」(小出氏)。ITとネットワークが,こうした共通業務のグローバルな再配置をリードしたといえるだろう。

 Free Up Capitalによるコスト削減で得た資金の再投資先は,「高成長分野の営業担当者を毎年10%ずつ増員したり,ソフトウエア研究開発費を倍増させたりして売上高の成長につなげている。だが,最大の再投資先は戦略的な企業買収に向けられている。買収件数は,この3年間で22件にのぼる。これらが次の成長の機会を生み出している」と小出氏は語る。

 こうした自社の経験を基に,HPはIT主導のトランスフォーメーションを立案するアプローチ方法を確立した。「世界のCIO(最高情報責任者)にもインタビューして,いま抱えている課題や経営に貢献できそうな領域を調べ上げた。これらを顧客固有の要件に合わせてカスタマイズしていけば,“ITがリードするトランスフォーメーション”を顧客自らが立案できるようになるだろう」(小出氏)。