角川デジックスの福田正社長。YouTubeと二人三脚で自動照合システムの検証を続けてきた
角川デジックスの福田正社長。YouTubeと二人三脚で自動照合システムの検証を続けてきた
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コンテンツ事業者が提供した正規版の動画(リファレンス動画)と、投稿された動画の類似性を判定する
コンテンツ事業者が提供した正規版の動画(リファレンス動画)と、投稿された動画の類似性を判定する
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正規動画と類似すると判定された投稿動画は、警告が出て公開されない。ただし、コンテンツ事業者が「そのまま残す」「投稿動画に広告を付けた上で残す」ことを選択すれば公開可能になる
正規動画と類似すると判定された投稿動画は、警告が出て公開されない。ただし、コンテンツ事業者が「そのまま残す」「投稿動画に広告を付けた上で残す」ことを選択すれば公開可能になる
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 角川グループホールディングス(角川HD)は2008年1月25日、動画投稿サイト最大手のYouTubeにおいて自社コンテンツや広告などを配信する新事業を2月上旬にも始めると発表した。YouTube内に角川グループの公式ページを開設、「涼宮ハルヒの憂鬱」に代表されるアニメ作品や映画の予告編などを配信する。また、一部動画上に広告を掲載し、閲覧数に応じてYouTubeから広告収入の分配を受ける。若手クリエイター発掘のためのイベントなどもYouTube上で実施していく計画。

 今回、角川が新事業を展開する背景には、YouTubeによる違法動画対策の進ちょくがある。YouTubeは、サイト上に投稿される違法動画を自動照合する技術の研究開発に取り組んでいる。違法投稿の被害が多い動画について、YouTubeがコンテンツ事業者から正規動画の提供を受けデータベースに蓄積しておく。YouTube上に新規動画が投稿されると、この新規動画と正規動画を参照し、動画の類似性を判定する。一定以上の類似性がある場合は違法動画と判断し、その投稿動画の公開を止め投稿者に警告するほか、コンテンツ事業者に通報する。

 コンテンツ事業者はその投稿動画を確認し、(1)削除する、(2)そのまま残す、(3)動画に広告を付けた上で残す――の3通りの対応を取れる。認証済みの動画に、コンテンツ事業者ごとの認証済みマークを付けることも可能という。広告は、投稿動画が50秒間再生されると、動画の下部に半透明のフレームをかぶせる形で表示させる。ユーザーがその広告を見てクリックすると、再生中の投稿動画を一時停止した上で広告動画が表示される。

 YouTubeは、増え続ける違法動画に対する抜本策として、2007年初頭からこうした違法動画の自動照合システムの開発を進めていた。角川HDと同社子会社の角川デジックスは2007年7月にYouTubeとの技術提携を発表。YouTubeと共同で実証実験などを進めていた。自動照合システムの開発が進展し、高い精度で違法動画の検出が可能になったことから、角川はYouTube上でコンテンツ配信などの事業を展開できる土壌が整ったと判断し、今回の新事業発表に至った。

権利者24法人にも説明済み、「スタートラインに立った」

 この日の会見に登壇した角川デジックス 代表取締役社長の福田正氏は、自動照合システムの完成度について「リファレンスとなる正規動画を提供していれば、違法動画はほとんど掲載されない。おおむね90%くらいの高いレベルでコントロールできる」と語り、実用性の高いものになっているとの認識を示した。「以前は『コンテンツがただ見されている、侵害されているからYouTubeは使わない方が良い』と思っていた。しかしこうした技術で違法動画の扱いをコンテンツ事業者がコントロールでき、対価をコンテンツ事業者に還元できるようになるなら良いのではないか。引き続き機能向上の取り組みは続けているが、近い将来には多くのコンテンツ事業者にとって使い勝手の良いものになるだろう」として、角川グループ以外のコンテンツ事業者でも、今回の自動照合システムが違法動画対策として効果を発揮するとの見方を示した。

 YouTubeの違法動画を巡っては、国内の著作権団体・企業24法人が共同で、2007年2月と8月の二度にわたりYouTubeに申し入れを行い、掲載済みの違法動画の即時削除などを要求していた。一方で2007年8月の会見では、「自動照合システムが完成し、違法コンテンツ対策として有効に機能するならば、次の話もしていきたい」(実演家著作隣接権センター 運営委員の松武秀樹氏)と、将来的な協業に向けた可能性に含みを残していた。

 24法人との協議について、グーグル日本法人 代表取締役社長の村上憲郎氏は「既に24法人には自動照合システムを見せており、おおむね理解を得られたと考えている。『1年前の約束を果たしてくれた』という反応をいただけた」と説明している。24法人側でも、日経パソコン編集部の照会に対し「自動照合システムのデモを見せてもらい、その仕組みや機能について承知している。今後、検証を続けることで実効性を高めてほしいと考えているが、スタートラインには立ったと認識している」(日本音楽著作権協会 広報部)と回答している。