写真●東京証券取引所の鈴木義伯常務取締役
写真●東京証券取引所の鈴木義伯常務取締役
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 「2009年に稼働させる予定の次世代システムでは、要件定義や設計に徹底して取り組み、上流工程が原因となって発生するバグを全体の5割以下に減らしたい」。東京証券取引所でCIO(最高情報責任者)を務める鈴木義伯常務取締役(写真)は2008年1月23日、東京・霞が関で開催された「第2回要求シンポジウム」の特別講演で、このように述べた。

 東証は08年1月15日に先物・オプション取引など金融派生商品(デリバティブ)を売買する新システム「新派生売買システム」を稼働させた。当初は07年10月に稼働させる予定だったが「要件定義、基本・詳細設計の甘さが原因のバグが多数発生したため、稼働を延期した」(鈴木CIO)。具体的には、テスト段階で発見したバグの7割は、上流工程が原因のものだった。鈴木CIOは「一般的に上流工程が原因で発生するバグは全体の5割くらいと言われている。今回の失敗を教訓に次世代システムの開発では、上流工程に多くの時間を割いている」と話した。

 さらに次世代システムの開発では、要件の変更管理を徹底している。要件変更は鈴木CIOの許可なしにはできない。担当者が勝手に要件を変更してしまうと、上流工程に時間をかけた意味がなくなってしまうからだ。もちろん、基本設計を進めていく上で要件定義の不足などを見つけ、適切に変更することで要件定義のレベルを高めることができる。次世代システムでは、RFP(提案依頼書)を1500ページ作るなど事前に相当細かいところまで詰めていたが、基本設計終了までに965件の要件変更があったという。これについて鈴木CIOは、「精査した上での変更であり、必要なものだったと思う」と語った。

 鈴木CIOは、「現在進めている取り組みによって、今までは受け入れテストまでいかないと判明しなかったバグの多くをなくせると信じている。テスト段階でバグを直すのには1件当たり100万~150万円掛かる。上流工程に時間をかけても、結果的にはコストの削減につながるはずだ」と講演を締めくくった。