3月に東大を退職する中山信弘教授
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教室は学生だけでなく社会人も多数訪れ、立ち見も出るほどに
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 知的財産権法に関する研究の第一人者として知られ、知的財産戦略会議や文化審議会などの委員も務める東京大学の中山信弘教授が、2008年3月末で東京大学を退職する。同氏の最終講義が1月22日に行われ、同氏が教鞭を振るった約40年間における知財をめぐる環境の変化、知財法制や人材育成などに関する今後の課題などを説いた。中山氏は4月以降、西村あさひ法律事務所顧問として引き続き知財関連の業務に携わっていく予定。

40年前の知財法は「諸法」の1つだった

 中山氏は東京大学法学部を卒業後、1969年に助手として東京大学に就職。学生時代に師事した教授の下で著作権法の書籍の編集作業を手伝ったことがきっかけで、知財法に興味を持ったという。以来、一貫して知財法を専門としてきた。「当時は、知財法がドイツ語の直訳で『無形財産権法』と呼ばれていた時代。独占禁止法などと共に『諸法』と位置付けられていた。1973年に無形財産権法の専任の助教授となった際も、小さな教室で学生も20人に満たなかった。何をどう教えるのかも手探りで、今思えば当時はひどい授業をしていた」と当時を振り返る。それは取りも直さず、「専任の教員さえいない状況から、中山氏が知財法という分野を切り開いた結果、現在ではどこの大学も知財法の授業を設けるようになり、多くの学生が集まる人気科目になった」(東京大学法学部長の井上正仁氏)ということでもある。

 中山氏は、ここ数年のパソコンやインターネットの普及により、知財をめぐる環境が大きく変化していると指摘する。その一例として挙げたのが、Linuxなどのソフトウエアで見られるオープンソースというライセンス形態と、クリエイティブ・コモンズ(CC)に代表される意思表示システムである。「従来の常識では、創作者に情報の排他的利用を認めることが情報の創出を促すとされていた。しかしオープンソースやCCは逆に、情報を独占ではなく共有することで発展させるというものだ。情報を独占する世界は厳として存在し続けるだろうし、情報を共有しようという考え方も広まり始めている。今後両者は、契約(による二次利用の許諾)という手法を介して併存するだろう」と中山氏はみる。