米Warner Bros.は2008年1月第2週,次期光ディスク規格への対応を「Blu-ray Disc(BD)」に一本化し,「HD DVD」のサポートをやめると発表した(関連記事:Warner Bros.がDVDタイトルを「Blu-Ray」に一本化,「HD DVD」対応は5月末まで)。その結果,次世代DVD規格の主導権争いの行方が大きく変わった。

 このニュースを追う形で,米Paramount PicturesもHD DVD支持をやめるとのうわさが流れた(その後Paramountは否定した)。しかし,HD DVD陣営がネバダ州ラスベガスの家電展示会2008 International Consumer Electronics Show(CES)で行おうと以前から準備していた報道関係者向けイベントを中止したため,次世代DVD規格争いはHD DVDの負けで終結するという見方が大勢を占めてしまった。

 こうしたうわさは,1月第3週に信ぴょう性が増した。HD DVD側の中心企業である東芝が,全HD DVDプレーヤ製品の大幅な価格引き下げを発表したせいだ(関連記事:東芝,HD DVDプレーヤの米国向け価格を値下げ)。300ドルだったローエンド・モデル「HD-A3」は150ドル,400ドルだったミドルエンド・モデル「HD-A30」は200ドルに,いずれも一晩で半額になった。ハイエンド・モデルの「HD-A35」は,500ドルから300ドルに下がった。BDプレーヤの価格は,同等クラスのHD DVDプレーヤに比べ以前から高かったが,最も安いモデルでも300ドル弱する。

 東芝の攻撃的な値下げの目的は,間違いなく消費者の目をHD DVDに向けさせるためだ。ところが,正反対の結果につながりかねない。業界アナリストは東芝の戦略を捨て身の行動と考え,消費者に「HD DVDの勝ち目はない」と匂わせている。

 もっとも,公平に見てHD DVDとBDのどちらも市場で特別好調というわけではない。2007年に米国で購入された次世代DVDプレーヤの専用機はわずか100万台で,BDでなくHD DVDが過半数(約58万台)を制した(ただし,ソニーはBD対応ゲーム機「PLAYSTATION 3」を340万台販売し,結果的にBD色を強めた)。プレーヤで再生できるコンテンツも振るわない。HD DVDおよびBD対応の映画コンテンツが400タイトルに過ぎないのに対し,現行DVDフォーマットだと数え切れないほどの作品が選べる。

 最大の問題は,業界のサポートにある。現時点で,BDは米Columbia Pictures,米Walt Disney,米20th Century Fox,米Sony Pictures Entertainment,Warner Bros.という大手映画スタジオ5社が支持している。HD DVD陣営にはParamountと米Universal Studiosの2社しかいない。DVDレンタル・サービス業の米Blockbusterと米Netflixはいずれも両フォーマットを扱っているが,Blockbusterによると貸し出されるハイビジョン(HD)作品の70%がBD版だという。

 さらに,業界のサポートをBDへ向かわせるかもしれないデータがもう一つある。プレーヤ1台当たりのHDコンテンツ購入枚数を比べると,BD対応プレーヤを持っている消費者の方が,HD DVDプレーヤ所有者に比べ2倍多いのだ。

 もっとも現在のところ勝者は決まっていない。米Appleや米Microsoftも含め多くの企業は,HDコンテンツ用ディスク規格よりデジタル・ダウンロード・サービスを重視しているように見える。そのうえ,ケーブル・テレビ会社のオンデマンドHDコンテンツ・レンタル・サービスによって,次世代DVD規格の普及度は現行DVDほどには上がらないだろう。この争いで真の勝者が決まるのは,物理的なメディアの時代が終わった後かもしれない。