写真1●「幕張データセンター」がある,日本IBMの幕張ビル
写真1●「幕張データセンター」がある,日本IBMの幕張ビル
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 日本IBMは1月11日,千葉市美浜区に開設した「幕張データセンター」の設備の一部を報道陣に公開した。同社がデータセンターを公開するのは初めてのことだ。幕張データセンターは,日本IBMのビルの一部を改修し,2007年12月に稼働を開始したばかりである(写真1)。

 このデータセンターは,日本IBMのアウトソーシング拠点の一つと位置付けられており,サーバーやストレージを預かるだけでなく,それを管理する「プロセスセンター」の役割も担う。また,プリンタやテープ装置を使った運用業務を請け負う「I/Oセンター」を併設する。敷地面積は,約2000平方メートルである。

 幕張データセンターは,日本IBMのビルを改修するにあたり,データセンターに必要な設備を組み込んでいる。主な特徴は4つある。(1)電源の冗長化,(2)免震構造,(3)セキュリティ,(4)環境対応,である。

電源冗長化の新技術を導入

 電源については,UPSや発電機を冗長化したほか,日本IBMのデータセンターとしては初めて,STS(Static Transfer Switch)を採用した。UPSから分電盤までの出力系統に不具合が発生した場合や停電時に,別の出力系統からの給電に切り替える装置である。切り替え速度は5ミリ秒以内である。これにより,システムの可用性を高める。

 やはり可用性を高める狙いで,マシン・ルームには免震構造を取り入れた。まず,「ボールベアリング」を30平方メートルごとに6個,床下に敷設した(写真2)。小型のボールが揺れによる摩擦を吸収する。さらに,コイル・スプリングやオイル・ダンパーが床を支え,地震派の加速度を1/5~1/10に低減するという(写真3)。

写真2●サーバー・ルームの床下には,振動を吸収するボールベアリング   写真3●揺れを吸収するコイル・スプリング
写真2●サーバー・ルームの床下には,振動を吸収するボールベアリング
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  写真3●揺れを吸収するコイル・スプリング
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 また,入退室のセキュリティは特に厳重である。「ユーザーの要望の中で,厳重なセキュリティは大前提。運用上は手間がかかることになるが,それよりはセキュリティを重視した」(日本IBM テクノロジー・デリバリー サーバー・システム・オペレーションズの小川久仁子理事)。

 具体的には,マシン・ルームに入るまで4つのゲートを設け,エリアをゾーニング。空港などに設置してある金属探知機や,ICカードによる認証システムなどを採用し,入室を制限している。

世界に5台しかない3次元温度分布実測機を導入

 環境対策にも力を入れている。電力消費量を抑えるため,マシン・ルーム内の温度管理を徹底。世界に5台しかない,移動式の温度分布実測機「Mobile Measurement Technology(MMT)」を国内で初めて導入した(写真4)。

写真4●移動式の温度分布実測機「Mobile Measurement Technology(MMT)」   写真5●中央にある針のようなものが温度センサー   写真4(左)●移動式の温度分布実測機「Mobile Measurement Technology(MMT)」

写真5(右)●中央にある針のようなものが温度センサー

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 2メートル以上あるキャスタに計測器を搭載,温度分布を立体的に計測する。高さ約20センチメートルごとに,9個の温度センサーを貼付している(写真5)。日本IBMのエンジニアは,これを動かしてサーバー内の温度を調べ,調整する。

 また,ラック内を直接冷却することで温度管理を効率化する冷却装置「Rear Door Heat eXchanger(RDHX)」も導入した。ラックの背面に冷風を送るドア型送風口を取り付け,サーバーを直接冷やす。サーバー・ルーム全体を冷やす空調を利用する場合に比べると,熱が高い個所を集中的に冷却できるため,消費電力を最大で25%削減できるという。

 一般家庭の空調同様に冷媒ガスを利用するものと,水冷方式のものの2種類のRDHXがある。前者は,三洋電機と共同開発した,省電力型クーラーと接続して使う(写真6)。後者は,幕張データセンターのビル設備から取り入れた摂氏18度の水を使って空気を冷やす(写真7)。

写真6●冷媒ガスを使う「Rear Door Heat eXchanger(RDHX)」   写真7●水冷式のRDHX   写真6(左)●冷媒ガスを使う「Rear Door Heat eXchanger(RDHX)」

写真7(右)●水冷式のRDHX

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「PUE」をエネルギー効率の指標に

 またIBMは,データセンターのエネルギー効率の指標として,「PUE(Power Usage Effectiveness)」を採用していることも明らかにした。データセンター全体で消費した電力を,IT機器で消費した電力で割った値である。「一般的なデータセンターは3.0を超える。幕張データセンターは約1.8。継続してエネルギー効率を測定して対策を実施し,この値をキープすることが重要だ。そのノウハウはほかのデータセンターにも順次展開していく」と,小川理事は説明する。

 幕張データセンターは,アウトソーシング・サービスの新拠点である。IBMはグローバルで,SDM(Standard Delivery Model)という考え方のもと,アウトソーシング・サービスを提供している。つまり,IBMがグローバルに抱える人材や技術の中から,ユーザー企業に最適なものを迅速に調達。サービスがどこの拠点が提供しているかをユーザー企業に意識させることなく,適切なサービスを適切なコストで提供する狙いだ。

 そのためにIBMは,運用管理プロセスやインフラの標準化,組織の最適化を進めている。「仕事に人や技術を当てはめるのではなく,仕事に最適な人や技術を提供する」(小川理事)。幕張データセンターもその一つである。国内のデータセンターとしては,ほかに7個所のデータセンターが,SDMの枠組みの中で運用されているという。