事務局が提示した資料
事務局が提示した資料
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 2007年12月27日に開催された総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」(情報通信審議会 情報通信政策部会の下部組織)において,「デジタル放送波に多重されるコピー制御信号への無反応機」対策に向けて設置された技術検討ワーキングのこれまでの議論が同委員会の主査を務める村井純慶應義塾大学教授から報告された。

 現在のコピーワンスは,いわゆる技術エンフォースメントという形体が運用されている。すなわち,放送波にスクランブルをかけており,「B-CASカード支給契約」を結んだ受信器メーカーに対してのみにB-CASカードを配布している。この契約によって,放送波に多重した権利保護情報(COGなどに関する情報)に基づいて動作する端末だけがデジタル放送受信機として流通させようというわけである。これに対して,スクランブルをかけずに制度を整備して無反応機の流出を制限するという形態もあり,これを「制度的エンフォースメント」と呼んでいる。なお,この技術検討ワーキングは,「海賊版市場など不正流通の防止の実効性を更に高めるための技術や制度などの在り方」を検討するために設置されたものであり,その一環として「エンフォースメントに係る制度を含めたルールの在り方」について審議を進めている。

 今日の報告では,これまでの検討で出てきた主な指摘を報告する形で行われた。(1)スクランブルとの関係では,いわゆる「無反応機」の登場を抑止するという意味では一定の効果を挙げていることや,スクランブルをかけずに制度だけで対応する場合には「ルール違反」の機器の製造が容易となり取締りの限度を超えて出回る可能性があるという指摘が出ているという。その一方でスクラブル放送の場合はこれを解除する仕組みが必要となるという端末側のコストや,B-CASカードの流通に関わるコストなどが発生する。ただし,コストについては,「ルール違反の機器を見つけて摘発する」場合にも発生するものであり,両者を比較することが重要と指摘した。さらには制度で対応する場合は,対応すべき「基幹放送」の範囲について,地上デジタル放送だけ絞るのか,さらに広げるのかなど対象を明確化する必要があるという意見も出ているという。

 (2)制度的エンフォースメントについては,「エンフォースメントの期待値をどこに定めるのか」,「制度の枠組みはルール違反機器が出回る事前と事後について整理する必要がある」,「ルールの内容について,現行の技術エンフォースメントで担保しているすべてを制度で担保するのか検討が必要ではないか」といった指摘があったという。

 委員会で今後,技術検討ワーキングを中心に,「制度エンフォースメント」について検討していく方針を示した。(1)スクランブルの可否と,これに伴う総合的なコスト負担などについて,(2)「ルール違反」に対する事前抑止力,(3)「ルール違反」に対する実効的防衛効果,(4)実現,維持に要するコスト,などに着目して検討を進めると報告した。

 事務局からは,最近出回った無反応機に関する資料が提出された(図1)。この資料は,各種インターネットや雑誌の情報や,ヒアリングなどに基づいて作成したという。今日の委員会の検討では,2007年11月5日に日本に上陸したと見られる無反応機の名前は一切登場しなかった。しかし,事務局が提出した資料(図1)でもその機器を模したかような形状をしていることからも明らかなように,この無反応機の登場にどう対処するのか,がこの委員会に突きつけられた課題となりそうだ。

質疑応答では,スクランブル不要論も

 質疑応答では,スクランブルの不要論も登場した。実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏は,「スクランブル化には我々コンテンツ側は関与していない」とした上で,「この委員会でダビング10に向けた議論をしたわけだが,それをあざわらうかの機器が出ている。エンフォースメントの効力は失われており,スクランブル放送は止める方向ではないのか」と指摘した。放送関係の委員などからは,「いわゆる浮遊カードの問題や,枚数が増えたときの運用コストの問題は当初から想定していたが,当時はこれしか手段がなかった。この委員会の第4次中間答申で制度的エンフォースメントの議論の道が開かれた。技術的エンフォースメントで実現されていることが,制度で可能かどうかは議論の余地はある。あるいは併用が必要かなどの議論が必要だが,検討に入る時期が来ている」といったコメントをした。