富士通ソフトウェアテクノロジーズがAndroidを移植したリファレンス・ボード
富士通ソフトウェアテクノロジーズがAndroidを移植したリファレンス・ボード
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ソフィアシステムズが開発した携帯電話機型のリファレンス・モデル
ソフィアシステムズが開発した携帯電話機型のリファレンス・モデル
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フリースケールのリファレンス・ボードの上ではPHSの通話機能も実現
フリースケールのリファレンス・ボードの上ではPHSの通話機能も実現
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 パソコンのエミュレータではなく、“実機”上で動く「Android」が、CE Linuxフォーラムが2007年12月21日に開催した技術発表会「テクニカルジャンボリー18」で披露された。CE Linuxフォーラムは家電機器(consumer electronics)へのLinux利用を推進する団体で、定期的に発表会を開催している。今回は、米グーグルが11月上旬に公開したLinuxカーネルを中核とするソフトウエア基盤「Android」が、議題の1つとして選ばれた。

 発表者は、富士通ソフトウェアテクノロジーズ 特定技術グループ組込みプロジェクトの近藤純司プロジェクト課長。同氏は、WILLCOMコアモジュールフォーラムの組込Linuxワーキンググループの代表を務めているが、今回はワーキンググループの公式活動ではなく、一会員の個人的な自主活動の成果として報告した。「Androidは無視できない流れ。個人としての活動ではあるが、公開できるものは公開し、遅れをとらないように有益なノウハウは技術者間で共有したい」(近藤課長)。

 近藤課長が手がけたのは、フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンが製作、WILLCOMコアモジュールフォーラムへ無償提供された、i.MX31(ARM11コアを内蔵、動作周波数は532MHz)を搭載するリファレンス・ボードへのAndroidの実装である。ウィルコムの無線通信機能を搭載するW-SIM(ウィルコム・シムあるいはダブリュ・シム)のソケット・モジュールも載っている。このボードを使い、有線経由のネット接続およびウィルコムのPHS網を利用した発着信を実現できるようにした。

 Androidに用意される通話コマンドはGSM用のもので、PHSの通信コマンドはサポートしていない。そこで、W-SIMでも動くように作り込んだ。通話機能は、仮想マシン(VM)Javaアプリケーションとしてではなく、C言語で記述した。今回は対処療法的な処置だったが、正式には2つの方法が考えられるという。「実際に存在するかどうかは定かでないが、Androidの推進団体であるオープン・ハンドセット・アライアンス(OHA)の仕様書、あるいはソースコードがすべて公開されたらその公開情報を参照したい」(近藤課長)。

 このほか、実際の電波環境に合わせた強度表示ができるようにした。Androidにはもともと電波強度の表示機能があるが、そのままでは固定表示になるため、実際に電界強度を測定して動的に表現できるようにした。無線網経由のネット接続は今後の課題となる。現在、フリースケールと共に取り組んでいるところだという。

 近藤課長は、ソフィアシステムズが開発した携帯電話機型のリファレンス・モデルも同時に紹介した。同社の携帯情報端末/IP電話向け開発プラットフォーム「Sandgate III-P」を利用したもので、米マーベル・テクノロジーの624MHz動作のPXA310が載っている(マーベルは、PXAシリーズを含む米インテルの携帯機器向けプロセサ事業を買収していた)。21日の発表段階では、リファレンス・モデルへのAndroidの移植が済んだ段階であり、W-SIMを含めた通信機能の対応までは着手されておらず、Androidの内部動作だけとなっている。

 富士通ソフトとソフィアの試作機はそれぞれ別個に開発されたものだが、ソフィアシステムズ 開発本部 モバイルソリューション開発部の小池輝グループリーダーがWILLCOMコアモジュールフォーラムの組込Linuxワーキンググループの副代表を務めることから、同代表の近藤課長が一緒に発表した。

 そもそも近藤課長と小池リーダーがAndroidを実機に搭載しようと考えたきっかけは、WILLCOMコアモジュールフォーラムのメンバー間で「Androidを調べてみないか」と盛り上がったことである。早速ソフトウエア開発キット(SDK)を手に入れて調べていたところ、SDKに含まれるエミュレータがARM環境を模していることが分かったため「カーネル以下を置き換えれば、実機でも簡単に動くのではないか」と考えたのだという。

 近藤課長がWILLCOMコアモジュールフォーラムの組込Linuxワーキンググループで最初に発表したのは11月26日だったが、エラー・メッセージを手がかりにトラブルシュートする移植作業は実質1~2日程度で済んだという。対応ハードウエアも、イーサネットやビデオ・ディスプレイ、キーパッド、タッチスクリーンなどごく標準的なものだけだったので、難易度は高くないだろうというのが最初の印象だったが、実際、さほど時間はかからなかったもようだ。

 21日の発表会での話題の1つは、描画能力だったという。3次元動画表示のようなアプリケーションが、ハードウエア・アクセラレータなしにどこまで「さくさく」動くのかという点に来場者の関心が集まった。多くの来場者は、アニメーションやズームイン/アウトが、思ったよりも軽く動いているという印象を受けたようだ。

■変更履歴
誤解を招きやすい表現がありましたため,3段落目と6段落目を修正しました。 [2007/12/27 10:20]