ニューヨークからビデオとSkypeで参加したEben Moglen氏
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弁護士 上山浩氏
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 「組み込みシステム機器に危険が起きる可能性ような場合でも,ソフトウエアの改変を可能にする必要があるのか」---12月21日,独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)オープンソースソフトウェア・センターが開催した「ソフトウエアライセンシングと知財問題に関するシンポジウム」で,GPLv3の起草者Eben Moglen氏と日本の専門家が議論した。

 GPL(GNU General Public License)はLinuxなどが採用する代表的なオープンソース・ライセンスである。Free Software Foundation(FSF)が策定している。2007年6月に,16年ぶりのメジャー・バージョンアップであるGPLv3を正式リリースした。

 FSF顧問のコロンビア大学ロースクール教授Eben Moglen氏はFSF創設者のRichard Stallman氏の意志を文字にしたGPLの起草者である。セミナーに合わせ来日する予定だったが,健康上の理由からビデオとSkypeで参加することとなった。

 Moglen氏はビデオ講演でGPLv3の策定過程を振り返った。「GPLv3は2006年から策定を開始し,ピーク時128人のメンバーが269時間にわたる会議を行った。6回の国際会議を開催,2741のパブリック・コメントが寄せられた」(Moglen氏)。

 策定中に米Microsoftと米Novellの提携が行われ,それに対抗するためGPLv3の草案を改訂した。「MicrosoftはNovellの顧客に対してのみMicrosoftが保持する特許の免責を与えるとした。そのため,特定の対象に特許の免責を与えた場合,免責は全ユーザーに自動的に拡張されるような文言を織り込んだ」(Moglen氏)。

 参加者からは,Moglen氏に対し以下のような質問が出された。

 「極端な例だが,自動車の制御にGPLv3で配布されたソフトウエアを使ったとする。ユーザーがソフトを書きかえると,場合によってはブレーキがきかなくなり事故が発生する可能性があるとしても,書き変えられるようにしなければならないのか」。GPLv3では,ソフトウエアの書き換えを可能にするため暗合キーなどの「インストレーション情報」を提供しなければならないと定められている。

 Moglen氏の答えは「ソフトウエアを改変する自由を保証するためインストレーション情報は提供されなければならない」というものだ。ただし「ROMなどリードオンリーのメモリーに書き込まれたものはこの限りではない。ブレーキのソフトウエアはROMに書き込むという方法もある」(Moglen氏)。

 Linus Torvalds氏は,現在のところLinuxカーネルをGPLv3に移行する意向を示していない。会場からは「Linuxカーネルがv2のままで,GNUのライブラリなどだけがGPLv3に移行しても問題はないのか」という質問も出た。
 
 Moglen氏は「問題はない。この問題については何度も何度も考えてきた。非互換性の問題は発生しない」と回答した。

 AGPL(Affero General Public License)に関する質問も出た。GPLはソフトウエアを配布した場合にソースコードの提供を義務付けるライセンスだが,AGPLではネットワーク経由でサービスとして利用する場合にもソースコードを提供しなければならない。

 「FSFとしては,GPLよりもAGPLを推奨するという考えはない。ただし,サービスとしてソフトウエアを提供する場合もソースコードの改変を公開すべきという考え方も広まってきており,そのような場合に適したライセンスである」(Moglen氏)。

 同日,同シンポジウムで講演した弁護士の上山浩氏は「GPLv3について,企業にとって使いにくい。ハードルが高くなっているのではないかという質問をよく受けるが,FSFが企業に使ってもらいたくないと考えているのであればそれは誤解だ。GPLv3の策定にあたってFSFは多くの企業と議論しており,ビジネスに使ってもらいたいと考えている」と述べた。