経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課 課長補佐 石川浩氏
経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課 課長補佐 石川浩氏
[画像のクリックで拡大表示]
経産省が2007年3月に実施したソフトウエアの法的保護に関する意識調査より。JEITA,JISA,CSAJ,JUASの会員企業を対象に行った
経産省が2007年3月に実施したソフトウエアの法的保護に関する意識調査より。JEITA,JISA,CSAJ,JUASの会員企業を対象に行った
[画像のクリックで拡大表示]

 「ソフトウエア特許取得の目的は『防衛』が多数で,『自ら実施』を上回る」---経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課 課長補佐 石川浩氏は12月21日,独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)オープンソースソフトウェア・センターが開催した「ソフトウエアライセンシングと知財問題に関するシンポジウム」の講演で,同省が行ったソフトウエアの法的保護に関する意識調査の結果を紹介した。

 同調査は2007年3月に,JEITA,JISA,CSAJ,JUASの会員企業を対象に行い,113社より回答を得た。特許取得の目的は『他社による同種発明の権利化を防ぐため(防衛出願)』が31.3%で,『発明を自ら独占的に実施するため』の24.2%を上回った。次いで『他社からの権利行使への対抗手段とするため』が19.18%。『発明を他社に実施許諾して収益をはかるため』が17.16%,『他社との間で相互に実施許諾するため(クロスライセンス)』が12.12%だった。

 約35%の企業がソフトウエアの開発に当たり他社の特許侵害を調査していない。その理由として約70%が人的,財政的資源の不足をあげる。約19%の企業が相互運用性情報の不足により,円滑な開発が阻害されたと回答。約43%の企業が『著作権によるソフトウエアの保護は不適』,約45%の企業が『特許によるソフトウエアの保護は不適』と回答した。また約15%の企業が,取得した特許を放棄したり,他社に対して権利行使しないことがあると回答。

 これらの調査結果が示しているのは,ソフトウエア特許の主な取得目的が「自ら使う」ためではなく「防衛」となっていることだ。すなわち,ソフトウエア特許は企業にとって「投資」よりも,「コスト」の意味合いが濃くなっている。「伝統的に考えられてきた特許の役割と異なっている」(石川氏)。

 このような認識から,経済産業省では2005年に「ソフトウェアの法的保護とイノベーションの促進に関する研究会」(委員長 学習院大学法学部教授 野村豊弘氏)を設置。ソフトウエアの,多層レイヤー構造,コミュニケート構造,ユーザーのロックイン傾向など,特有の性格から「一定の権利制限がソフトウエア分野全体のイノベーションを促進する可能性がある」との考え方に基づき,2006年10月,特許法の準則を制定した。ソフトウエアに係る特許権の行使において,権利の濫用と認められる可能性があるケースを記述したものである。濫用と想定される具体的な事例も示している。

 例えばOSで高いシェアを持っているA社があり,ユーザーB社がオープンソースのOSを使用していたケース。B社は,使用しているオープンソースOSがA社の特許を侵害していることを認識し,A社に対してライセンス料を支払うことをA社に伝えたにもかかわらず,A社がB社に対し使用差し止めを要求した。このような場合,利益考量,権利主張の主観的態様の観点から,権利の濫用と認められる可能性が高い。

 このような「特許の濫用を制限することでイノベーションを促進する」という観点は,国際的な潮流とも呼応するものだ。米国の民間組織である競争力評議会(Council on Competitiveness)は2004年12月に報告書「Innovate America :Thriving in a World of Challenge and Change」(通称:パルミサーノ・レポート)を公表し「多くの最先端分野におけるテクノロジーの進歩は共有された知識,標準,共同的なイノベーションへの取り組みから生まれている」と指摘している。経産省ではOECD(経済協力開発機構)でソフトウエアのイノベーションに関するスタディ・グループを立ち上げている。

 石川氏は「具体的な事例の収集・分析を行うとともに,GPLv3などのライセンスの解釈の明確化などを通じオープンイノベーションを促進していきたい」と経産省の今後の方向性を示した。

◎関連資料
「ソフトウェアの法的保護とイノベーションの促進に関する研究会」中間論点整理について(PDF)
ソフトウェアに係る知的財産権に関する準則(PDF)