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 ビジネス書として16万部のベストセラーになった『御社の営業がダメな理由』や、『営業は売ってはいけません』の著者であるグランド・デザインズ(東京都港区)の藤本篤志代表取締役に、若手のIT営業が持つべき「営業の心得」を聞いた。USENの元トップ営業であり、同社とスタッフサービス・ホールディングスの営業担当取締役を務めた経験を持つ。

■若手の営業担当者にまず伝えたいのは、「営業成果はどれだけがんばったかではなく、“営業量×営業能力”できっちり決まる」ということだ。量をたくさんこなしても、能力が低いままでは成果が上がらない。では営業能力とは具体的には何か。IT営業の場合はシステムという形のないものを買ってもらうのが仕事。だからその能力とは「顧客の真のニーズをとらえ、その答えをきっちりと提案に盛り込む力」になる。

■ただここには、若手が誤解しがちなポイントがある。効率的に顧客ニーズを洗い出そうとあらかじめ商談のシナリオを作り込み、それに固執してしまうケースが多々あるのだ。現実の商談はそううまくはいかない。すぐシナリオから脱線したり、顧客が正反対の反応を見せたりする。でも人間の本音はたいてい、脱線した部分に現れるもの。そのことに気づき、顧客のニーズを“ライブ”の会話の中で引っ張り出していくことが重要だ。

■“ライブ”の会話の中から顧客ニーズをつかめるかどうかは、正直言って生まれつきのセンスで左右される部分でもある。ただ経験から言うと、トップ営業と言われる人であっても、最初からセンスを備えていることはほとんどない。商談に必要な知識をたゆまぬ努力で身に付け、それを現場で活用することで、その微妙な感覚を養ってきた結果なのだ。

■つまり、営業は各種の知識を総合的に身に付けておく必要がある。自社の商材に関する知識を頭に叩き込むのは大前提だが、日常的な会話に対するアンテナを磨いておくことも重要なポイントだ。

■例えば、商談相手の情報システム部長が「将棋の歩は、いつか“と金”に変身する。そんなシステムが欲しいんだよ」と言ったとする。そこで「歩は“と金”になることで、前後左右に動けるようになる」とすぐに思い描ければ、「最初は単一の用途で導入しつつ、将来は汎用的に使えるシステムに拡張したいのだな」と、相手の思いに気付くことができる。商談中のどんな会話にだって、顧客ニーズを引き出すチャンスが潜んでいるはずなのだ。