12月18日に行われた私的録音録画小委の様子
12月18日に行われた私的録音録画小委の様子
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漠然と将来の制度設計を話し合うのでなく、当面(2007年)と長期的な目標(20XX年)に2分割して議論の進展を図った(私的録音録画小委の配布資料より。以下同)
漠然と将来の制度設計を話し合うのでなく、当面(2007年)と長期的な目標(20XX年)に2分割して議論の進展を図った(私的録音録画小委の配布資料より。以下同)
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20XX年の私的録音の制度設計
20XX年の私的録音の制度設計
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20XX年の私的録画の制度設計
20XX年の私的録画の制度設計
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 文化庁長官の諮問機関である、文化審議会 著作権分科会 私的録音録画小委員会の2007年度第15回会合が、12月18日に開催された。制度の見直しを巡って権利者側とメーカー側の対立を解くための打開策として、将来的な制度のあり方を時系列で整理するという資料が配布され、これに基づいた議論が展開された。

 この資料では、娯楽目的の私的録音録画について、デジタル著作権管理(DRM)が広く普及することを視野に入れ、それが実現する過程で目指すべき法制度のあり方を示した。事務局である文化庁 長官官房 著作権課が作成した。この中で、将来的に著作権保護技術が発達・普及した段階で、(1)私的録音録画補償金を廃止し、契約ベースでの対価支払いに移行する、(2)娯楽目的の私的録音録画を、著作権法に定められた私的複製の範囲から除外する、(3)DRMにより一定回数・方法でコンテンツの複製が認められている場合、その範囲内であれば権利者がユーザーに私的複製を許諾したものとみなす、(4)タイムシフトやプレイスシフトもいったん第30条の適用範囲から除外するが、こうした利用形態を無許諾・無償で認める規定を再度作ることも検討課題としておく、といった内容を盛り込んでいる。

 なお、上述の法制度を実現する時期については「20XX年」とだけ記載し、具体的な目標年度などは盛り込んでいない。また、現行制度からある時点で一斉に制度を切り替えるわけではなく、徐々に制度を修正しながら最終的に上述の法制度を目指していくとしている。

「将来」を2分割、長期的視点と当面の対策でそれぞれ議論

 事務局がこの資料を提出した狙いは2つある。一つは、小委員会における権利者側とメーカー側の対立を解きほぐし、膠着(こうちゃく)状態から脱して議論を進めること。もう一つは、細かい制度設計の議論で時間を浪費するのではなく、大局的な見地での議論から委員間での共通認識を築いていくことである。

 私的録音録画補償金を巡っては、2005年度の文化審議会 著作権分科会 法制問題小委員会から、権利者側とメーカー側との間で長く対立が続いている。メーカー側は、課題の多い現行の補償金制度を廃止し、DRMと契約をベースにした対価支払いに移行することを一貫して主張。これに対し権利者側は、DRMと契約をベースにした法制度に現時点で移行することは困難として反対しており、当面は現行の補償金制度を維持・拡大することを主張している。2006~2007年度の私的録音録画小委では、大局的な議論より細かい制度設計に重点を置いて話し合いが持たれたが、権利者側とメーカー側との基本的な認識の違いが大きく、議論がかみ合わないケースが多くみられた。

 時間的な問題もある。私的録音録画小委は、2008年1月末ころをめどに議論をまとめて報告書をまとめる必要があるが、これまでのところ議論の整理も十分でなく、このままでは時間切れで成果ゼロになりかねないという状況にある。

 もっとも権利者側は、DRMが十分普及し対価の支払いが適切に行われる状況が将来的に実現すれば、DRMと契約をベースとした法制度に移行することに同意する考えを示している。そこで今回の資料では、「将来」を時系列で2つに分け、比較的細かい議論になりがちな当面の制度設計と、20XX年を目標とする大局的な制度設計とした。その上で、まずは後者を取り上げ、大局的な見地から双方の共通認識を形成することを図った。

 こうすることで、「最終的に20XX年の姿に到達するために、当面どうすればよいのか」に議論を集中でき、議論の発散を防げる。また、ひとまず2007年度の成果として20XX年の制度設計を残すことができれば、2008年度以降に私的録音録画小委を継続する際にも、議論を振り出しに戻すことなく2007年度の続きから議論を再開できる。また、ユーザー側委員からは、かねて「個別の具体論ではなく、大局的な見地での“そもそも論”を話し合わせてほしい」との意見がたびたび挙がっており、こうした声に応じたという側面もある。

取りまとめの方向性には、ひとまず合意

 この日の会合では、資料の記載内容に対していくつかの意見が出たものの、取りまとめ方自体への反対意見は少なく、これまでの紛糾から脱却して議論が進展していく兆しが見えた。

 野原佐和子委員は「これまでの私的録音録画小委は、(設置当初の目的である)私的録音録画補償制度の抜本的な見直しにはほど遠く、当面の問題について語っていた。委員も現時点での関係者のみで、新しいビジネスを手掛ける人が参加していない。今回のような(将来を見据えた)取りまとめには意義がある」と語った。その上で、「20XX年では時期が漠然としすぎている。もう少し具体化してもよいのではないか。また、20XX年の法制度をどのように実現していくかの議論が必要ではないか」と指摘した。

 椎名和夫委員は、「長い議論から先へ行くには、こういう整理しかないと思っている。例えば2050年などと時期を固定してしまうのでなく、その時その時で補償金とDRMのどちらが良いのかを、常に考えながら進んでいくのがよいと思う」とした。

 亀井正博委員は、「双方の主張を包含した良いまとめ。20XX年の将来像に向けて、(すべてを一斉に変更するのでなく)一つひとつの課題を順次達成していくものだと思う。新たなイノベーションを生むには、補償金でなくDRMと契約ベースの世界に行くのがよいと思う」と述べた。

 一方、津田大介委員は「DRMと契約ベースへの移行が本当にできるのか、現状では疑問」と慎重な意見を表明した。「デジタル放送のコピー制御がFriioで破られたし、コピーコントロールCDやレーベルゲートCDによるコピー制御も失敗した。コピー制御技術の誕生とそれを破る行為はいたちごっこで続いていくのではないか。また、すべてがネット上でのコンテンツ配信に移行するわけではなく、CDをはじめレガシーなパッケージや機器も残るだろう。DRMできちんと制御できる世界はまだ先ではないか。本当にネット流通が実現してからDRMと契約ベースの法制度を提案すればよいのではないか」と、事務局が描く将来像の実現性に疑問を呈した。

 津田委員はまた、「20XX年が2階なら、現状は中2階。2階を目指してもなかなか行けない状況にあって、中2階の補償金はさまざまな問題を持ちつつもバランスの取れた制度だと思う。2階の姿が決まっていないなら、現状維持があってもよいのでは」との考えを示した。

 河村真紀子委員は、「補償金をなくしたら第30条もなくなるといった、交換条件のような言い方には納得できない。DRMが埋め尽くす日を待つというのが、本当に幸せなのかどうか。無許諾・無償での私的複製をクリエイターが選択できる余地もあった方がよい」と指摘。また、「仮に補償金が今後も残るならば、コピーワンスを押しつけられた上に補償金を押しつけられるというのは、消費者の立場からすると自由(に私的複製できる環境)ではない」との意見を表明した。

 20XX年のあるべき姿を共有することで、ひとまず正常化した私的録音録画小委。今後の焦点は、長期的な目標を踏まえて当面の制度設計をどうするかに移る。亀井委員は「長期的な視点で(亀井委員の所属する)JEITAの主張が認められたからといって、当面の制度で譲歩するということはない。そこは次回以降の会合できちんと議論していく。デジタル放送に関しては(アナログ放送が停波する)2011年に補償金を廃止するなど、従来の主張を変えることもない」とクギを刺す。今後の会合は2008年1月までに3回予定されているが、再び紛糾する事態になれば、何の成果も残せないまま2007年度の私的録音録画小委が終了となる可能性もある。残り3回の議論の行方に注目が集まる。