図1●XAMLファイルを読み込んで,ユーザー・インタフェースの見た目とXAMLコードを表示する「WPFデザイナ」
図1●XAMLファイルを読み込んで,ユーザー・インタフェースの見た目とXAMLコードを表示する「WPFデザイナ」
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図2●新搭載のJavaScriptデバッガ。コード修正中にIntelliSenseも働いている
図2●新搭載のJavaScriptデバッガ。コード修正中にIntelliSenseも働いている
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 マイクロソフトは2007年12月14日,統合開発環境「Visual Studio 2008」日本語版の開発を完了,同日から開発者向けソフトウエア提供サービス「MSDN Subscription」会員向けにダウンロード提供を開始した。パッケージの販売は2008年2月8日,複数ライセンスの一括販売(ボリューム ライセンス)は2月1日に開始する。価格はオープン。

 マイクロソフトは,Visual Studio 2008ベータ2の提供を2007年8月10日に開始した。「ダウンロード数は8万から9万程度。期間が短かったわりには非常に多いと言えるのではないか」(マイクロソフト デベロッパー製品部の近藤和彦マネージャ)。ベータ版の品質に関しても「安定しているとの声が多い」(同)ことから,製品の開発はほぼ順調に進んだとみられる。

Windows Vista完全対応の
開発ツールがようやく登場

 Visual Studio 2008は,Windows Vistaが標準搭載する.NET Framework 3.0と,Visual Studio 2008とともに登場する.NET Framework 3.5を使ったアプリケーションを開発できる統合開発環境。.NET Framework 2.0にも対応するので,前版のVisual Studio 2005からのアップグレードもしやすい。

 .NET Framework 3.0はユーザー・インタフェースを構築するための技術「WPF(Windows Presentation Foundation)」,Webサービスなどを利用した分散アプリケーションを構築するための技術「WCF(Windows Communication Foundation)」などの機能を搭載している。Visual Studio 2005でも .NET Framework 3.0を利用した開発は可能だが,公式サポートのない試用版の追加プログラムをインストールしなければならないなど,本格的な開発には使いにくかった。

 Visual Studio 2008はWPFで利用するXAML(eXtensible Application Markup Language)ファイルをビジュアルに編集する機能「WPFデザイナ」(図1)などを搭載するなど,.NET Framework 3.0に完全対応している。Windows Vistaアプリケーション開発に使える初めての公式ツールとなる。

 新登場の.NET Framework 3.5は新開発のデータ・アクセス機構「LINQ(Language Integrated Query)」を搭載する。この機能はRDBMSのテーブルやXMLファイルなどのデータに対する統一したアクセス手段を提供する。LINQでは言語仕様にデータ・アクセス用のクエリ式を記述するための仕様を組み込んだ。これにより,クエリ式にもコンパイル時のチェックやコード補完機能「IntelliSense」が働くようになる。

 さらに,.NET Framework 3.5では,現在「ASP.NET AJAX」として別パッケージで配布しているASP.NET用のAJAXライブラリも統合する。このライブラリはWebページで利用できるユーザー・インタフェース部品をコントロールとして備えており,ドラッグ&ドロップでWebページのユーザー・インタフェースに組み込める。

 Visual Studio 2008も,Webアプリケーション作成を便利にする新機能を搭載した。まず挙げられるのがJavaScriptデバッガだ(図2)。ブレークポイントを利用したデバッグが可能になる。また,IntelliSenseがJavaScriptにも対応した。さらに,CSS(Cascading Style Sheet)ファイルの編集を容易にする機能も加わった。Windowsフォーム・アプリケーションで利用するコントロールのプロパティを編集するように,CSSの定義内容が一覧できる表を操作することでCSSファイルを編集できる。

 Visual Studio 2008の製品ラインナップは表1の通り。前バージョンと同様,企業でのチーム開発を支援する機能を搭載した「Team System」5エディションと,中小規模アプリケーション開発に適した「Professional Edition」,「Standard Edition」を提供する。さらに,周辺ツールとして,ソースコードの変更やチームでの作業項目の管理,自動ビルドなどの機能を提供するサーバー・ソフトウエア「Team Foundation Server」と,テスト時に仮想的に大量のユーザーがいるという想定で負荷をかけるツール「Test Load Agent」も用意する。

 前バージョンから登場した機能限定「Express Edition」の新版も引き続き無償で提供する。ただし,Java言語に対応した「Visual J#」はラインナップから姿を消した。Express Editionの各製品は12月18日から,同社の開発者向けWebサイトMSDNで配布を始める予定。全エディションとも稼働OSはWindows XP/Vista/Server 2003。32ビット版(x86)だけでなく64ビット版(x64)にも対応する。

2005のExpress EditionがあればProやStandardにアップグレード可能

 Microsoft Officeのユーザー・インタフェースを利用したアプリケーションを作成する機能をもつ「Tools for the Microsoft Office System」は姿を消し,同等の機能をProfessional Edition以上の製品に組み込んだ。さらに,Officeの最新版である「2007 Microsoft Office system」に対応した。

 そして,従来は学生,教育関係者向け製品「アカデミック パック」としてStandard Editionを用意していたが,今回からProfessional Editionに変更した。これは,「学生,教育関係者がStandard Editionの機能に不足を感じて,Professional Editionを通常価格で購入する例がかなり多かった」(デベロッパービジネス本部の市橋暢哉本部長)ためだという。

 表には新規購入パッケージの想定価格を記載した。パッケージ製品にはこのほかに「更新パッケージ」と「アップグレード」が存在する。それぞれ,新規購入の半額程度で購入できる。更新パッケージは,MSDN Subscriptionの使用権を更新するパッケージ。Team Systemの各製品(Test Load AgentとTeam Foundation Serverは除く)とProfessional Editionに用意している。

 アップグレードは「Visual Studio .NET 2002」などの旧版の開発環境のユーザー向け。MSDN Subscriptionは付属しない。アップグレードはProfessional EditionとStandard Editionに用意している。アップグレード対象製品はMSDN Subscription(Library Subscriptionを除く),Visual Studio .NET 2002/2003(単独言語に対応した製品も対象),Visual Studio 2005など。Visual Studio 2005の場合,無償版のExpress Editionも対象とする。

 これは「Express Editionで.NETプログラミングに取り組んでくれた開発者への配慮」(近藤マネージャ)としている。この制度を利用すれば,Professional Editionを6万8040円,Standard Editionを2万790円(それぞれ税込推定小売価格)で購入できる。.NETアプリケーションの開発人口拡大を狙った,思い切った策と言えるだろう。

 市橋本部長は「2008年にはサーバーOSの新製品『Windows Server 2008』やRDBMSの新製品『SQL Server 2008』も登場する。Visual Studio 2008はこれらの新製品を使ったアプリケーション開発にも対応している。2008年はマイクロソフトの開発ツール製品としては過去最大規模のビジネスを展開していく」と意気込みを語った。

製品名 税込想定小売価格
Visual Studio Team System 2008 Team Suite 157万5000円
Visual Studio Team System 2008 Architecture Edition 78万7500円
Visual Studio Team System 2008 Development Edition 78万7500円
Visual Studio Team System 2008 Database Edition 78万7500円
Visual Studio Team System 2008 Test Edition 78万7500円
Visual Studio Team System 2008 Test Load Agent ボリューム ライセンス販売のみ
Visual Studio Team System 2008 Team Foundation Server 39万9000円
Visual Studio 2008 Professional Edition 17万3250円
Visual Studio 2008 Standard Edition 3万1290円
Visual Studio 2008 Professional Edition アカデミック 1万3440円
Visual Studio 2008 Express Editions 無料

表1●Visual Studio 2008の製品ラインナップと,新規購入パッケージ製品の想定小売価格。Team Systemの各製品(Test Load AgentとTeam Foundation Serverは除く)にはMSDN Premium Subscription,Professionalには,MSDN Professional Subscriptionのそれぞれ1年分の利用権が付属する