写真右から,アームの西嶋貴史氏,ルネサス テクノロジの茶木英明氏,NECエレクトロニクスの中村一夫氏,富士通の田島豊久氏,ヤマハの曽根卓朗氏,NEC東芝スペ-スシステムの檜原弘樹氏,日経BP社の浅見直樹 ITpro発行人。
写真右から,アームの西嶋貴史氏,ルネサス テクノロジの茶木英明氏,NECエレクトロニクスの中村一夫氏,富士通の田島豊久氏,ヤマハの曽根卓朗氏,NEC東芝スペ-スシステムの檜原弘樹氏,日経BP社の浅見直樹 ITpro発行人。
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アームの西嶋貴史氏
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ルネサス テクノロジの茶木英明氏
ルネサス テクノロジの茶木英明氏
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NECエレクトロニクスの中村一夫氏
NECエレクトロニクスの中村一夫氏
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富士通の田島豊久氏
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ヤマハの曽根卓朗氏
ヤマハの曽根卓朗氏
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NEC東芝スペ-スシステムの檜原弘樹氏
NEC東芝スペ-スシステムの檜原弘樹氏
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 ハードウエア機器に組み込まれるソフトウエアのサイズが肥大化することで,開発期間の長期化や品質の低下を招く。こうした“ソフトウエア爆発”に対する対処方法にはどのような解があるのか---。12月14日,TRONSHOW 2008のパネル・セッション「組込み開発最前線」では,組み込みソフトウエア開発に携わる6社のキーパーソンが組み込みソフトウエアの標準化について議論を交わした。

 パネル・セッションの冒頭,司会を務めた日経BP社の浅見直樹 ITpro発行人は,出版社の媒体発行人としての立場から2007年を振り返り,トラブル記事が印象的だったと話した。JR東日本の自動改札機でSuicaが使えなくなった問題やNTT東日本のひかり電話がつながりにくくなった問題に触れ,組み込みソフトウエアの信頼性低下とサイズの肥大化という問題を提起した。

 組み込みソフトウエアを取り巻く,こうした問題に対する解としては,プラットフォーム化やライブラリ化によりソフトを新規に開発しないことや,開発環境や開発方法論を含めて標準化を進めることなど,エンタープライズ分野の業務アプリケーション開発と似た結論が提示された。一方で,標準化されていない部分が先行技術として差異化を図るポイントとなっていることも指摘された。

 以下では,6人の主な発言をまとめた。

英ARMの日本法人であるアームで代表取締役社長を務める西嶋貴史氏:

 ソフトウエアは,時間が経つにつれて標準化が進む。開発組織としての水平分業も進む。競争力の源泉はスピード(短期開発)であり,標準化やプラットフォーム化が重要になる。つまり,標準化は競争力になる。

 現在では,バグが少ないといった品質の向上に加えて,消費電力の少なさも求められている。ARMは累計100億個のチップを出荷しているが,100億個が100ミリ・ワット節約すると,1年間で節約できる電力は,100ミリ・ワット×8時間×365日×100億で,30億Kワット時間となる。これは40万人の年間電力使用量に匹敵する。

ルネサス テクノロジでシステムソリューション統括本部SoC(システム・オン・チップ)システム統括部長を務める茶木英明氏:

 アプリケーションの多様化によって“ソフトウエア爆発”が起こっている。これに対する効果的な対応策とは,ソフトウエアを作らないことだ。標準化されている機能をプラットフォーム化/ハードウエア化する,あるいは共有ライブラリ化する。仕方なく作る必要がある場合は,標準化されている開発環境や設計手法を用いて,効率よく作る。出荷後のメンテナンスを減らすために,上流工程にリソースを投入することも大切だ。

NECエレクトロニクスで上席プロフェッショナルを務める中村一夫氏:

 現在,組み込み系の技術領域はカオスであり,参加プレーヤは多いが,リーダーが少ない。業際ビジネスの様相を呈しており,産業に成り切れていない。こうした中,ひとつ言えるのは,現在は,デバイス開発とセット開発の間に挟まる“デバイスSI”(システム・インテグレーション)の時代だということ。

 NECエレクトロニクスは数年前からデバイスSIの重要性に気付き,取り組んでいる。TRONのT-Engineのような標準プラットフォームの上に付加価値を載せ,リファレンス・ソリューションを打ち立てていくというものだ。ここでは,ファームウエアやOS,ミドルウエアといったシステム技術をいかにパッケージ化するかが肝となる。

富士通で電子デバイス事業本部ソフトウェア技術統括部長を務める田島豊久氏:

 μT-Kernelのように,標準化が進んでいる好例がある。同社でも深く関与している。こうした標準ソフトウエアで済む部分は,標準を使えばよい。一方で,新たなソフトウエア開発が必要な場面においては,できるだけ手戻りが発生しないよう,上流工程での品質の作り込みに取り組んでいる。

 組み込み用途では,SOFTUNEと呼ぶ開発環境を用意してきた。現在のSOFTUNEは,業界標準の統合開発環境であるEclipseに組み込まれ,Eclipseから利用できるようになっている。

ヤマハでサウンドネットワーク事業部商品開発部長を務める曽根卓朗氏:

 標準か独自かというジレンマを感じている。まず,製品の価値は,性能や機能といった“強さ”から,利用シーンの提案などの深さへと移ってきている。機能だけで競争するのは難しくなっている時代であり,モノやサービスにどのような意味付けをしたのかが問われている。米Appleの製品のように,「この会社の製品を持っているとカッコイイ」という価値が大切な時代なのだ。

NEC東芝スペ-スシステムで技術本部エキスパート・エンジニアを務める檜原弘樹氏:

 人工衛星の開発は,伝統的なウォーター・フォール型を採用している。開発期間は,早いもので3年,ゆっくりなものでは10年を要する。一度宇宙に打ち上げてしまうとメンテナンスできなくなるという状況も手伝い,他の製品開発と比べると贅沢な開発プロセスとなっている。外部から購入するソフトウエアや標準的なソフトウエアの流用などもあるが,ソース・コードを入手して調査/試験している。

 標準化技術の流用という意味では実際,小惑星探査機のはやぶさ,月周回衛星のかぐや,地上観測用衛星のだいちなどで,標準プラットフォームであるTRONを使っている。はやぶさでは通信制御用途に,かぐやとだいちでは通信制御に加えて運転制御を含め全般的にTRONを利用している。T-Kernelのソース・コードにも,随分と手を加えて使っている。

 人工衛星には放射線対策という問題がある。半導体メモリーのデータが反転するといったSER(Software Error Rate)への対策が必須となる。地球に近い部分でも,魔の三角地帯(バミューダ・トライアングル)では,現実にメモリー・データの反転が頻ぱんに起こっている。そして,この問題は,実はLSIの設計プロセス・ルールが微細化している昨今,地球上でも問題になりつつある。

■変更履歴
米ARMという表記がありましたが,英ARMの誤りです。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2007/12/20 17:20]