情報処理推進機構(IPA)でソフトウエア工学に関する研究をしているソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)は、ITベンダーのソフトウエア・エンジリアニングの習熟度と利益の関係についての調査結果を発表した。そこでは、「プロジェクト管理力」や「品質管理力」が高いベンダーほど営業利益率が低いという“皮肉な”結果が出ている。

 調査の名称は「SE度調査2006」。2006年11月に実施した。東京商工リサーチのデータベースに基づいて、受託開発に従事する従業員300人以上のITベンダーを抽出し、これに最大手システム・インテグレータを加えた計537社に調査票を送付。回答のあった86社のうち、78社からの回答を有効回答とした(有効回答率は15%)。結果はSECのWebサイトで公開している。

 SE度調査2006では、ソフトウエア・エンジリアニングの習熟度を7つの柱で評価し、その評価を基に「SE度」という独自の指標を算出した。7つの柱は、「アウトプット力」「プロジェクト管理力」「品質管理力」「プロセス改善力」「開発技術力」「人材育成力」「顧客接点力」。それぞれは複数の評価項目で構成しており、例えば「開発技術力」には、「最新技術への取り組み」「ソフトウエアの再利用と資産化の状況」といった項目がある。

 調査結果からは、全体としてSE度が高いほど営業利益率が高くなる傾向が分かる。柱別では、「アウトプット力」「開発技術力」「プロセス改善力」に同様の傾向がある。特に「開発技術力」は、7つの柱のうちで営業利益率との相関が最も高い。

 一方で「プロジェクト管理力」と「品質管理力」が高い企業ほど営業利益率が低いという結果が出た。この結果についてSEC 企画グループの新谷勝利研究員は、「本来、プロジェクト管理力があると利益を損なうとは考えにくい。今だけの傾向であると推測しており、中長期的には相関関係が出てくると考えている」と語る。“今だけの傾向”というのは、「現時点で多くのベンダーは赤字プロジェクトを抱えており、その状況を改善すべく、コストを投じている。改善に力を入れているベンダーほどプロジェクト管理力や品質管理力が高くなっているが、投入しているコストが利益を圧迫しているのではないか」(新谷研究員)との分析からだ。

 SECは現在、「SE度調査2007」に取り組んでいる最中である。SEC エンタプライズ系プロジェクトの長岡満夫プロジェクトリーダーは、「SE度と利益の関係を明らかにするにはまだ改善すべき点があるが、SE度とそれを構成する7つの柱に関しては、ソフトウエア・エンジリアニングの習熟度を図る指標として有効であると、多くの有識者から評価を受けている」と話す。SECから調査を受託した角埜(かどの)恭央 芝浦工業大学大学院教授は「30人近くの有識者にインタビューした結果から作成した指標であり、有効性は高いはずだ」と語る。