日本が取り組む課題はまだまだあると指摘する竹中平蔵 慶應義塾大学教授
日本が取り組む課題はまだまだあると指摘する竹中平蔵 慶應義塾大学教授
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 2007年12月6日、東京ビッグサイトで開催中の「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2007」の基調講演で、慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長の竹中平蔵氏が登壇。「課題先進国日本の役割とは」と題した講演を行った。

 竹中氏が日本が取り組むべき最大の課題として挙げたのは「経済の再生」だ。バブル崩壊後、小泉政権下の不良債権処理などの改革によって、年2%のGDP(国内総生産)成長率にまで持ち直してきた。しかし、少し良くなった結果に満足してはいけないというのが、同氏の主張だ。

 「日本経済はまだ強くなれる余地があるからだ」と竹中氏は話す。強い経済力を持つ米国が、年3%のGDP成長率を維持している。日本がまだ実施していない課題に取り組むことで、同じようにGDP成長を3%にできる。GDP3%成長を維持できれば、消費税率を引き上げずとも税収を確保できると同氏は見ている。

 「強い経済を実現するために、解決すべき課題はまだまだ残されている」と竹中氏は訴える。米国がやっていることで、日本がやっていないことを探せばいいというのだ。例えば、イノベーションを次々に生み出す、米国シリコンバレーと同じ仕組みを自国に作りたいと考える外国政府担当者はたくさんいる。「しかし、シリコンバレーを作るために、米国政府が直接投資をしたことはない。教育の枠組み、税制面のインフラを作っただけ。ここに日本が学ぶべき重要な示唆がある」と竹中氏は話す。

 「シリコンバレーのような新産業を創造するために、日本政府がしてきたことは、天下り組織への投資ばかり。結果として失敗している」と竹中氏は指摘する。新産業を創造できるベンチャー、そのベンチャーを育む強い大学が不足していると同氏は課題を示す。ばらまき型の運営交付金をやめ、競争力を生み出しそうな研究を見極めて資金を集中投下すれば、研究の質が高まり、新産業の創造につながる。これは、米国がやっていて、日本ではまだできていないことだとしている。

 また竹中氏は、空港行政の課題も挙げる。海外ではオープン・スカイという考え方で、24時間稼働の空港が数多くできている。だが国内では、羽田空港や成田国際空港は24時間化できていないし、24時間営業している関西国際空港であっても、夜中の離着陸路線を政府が認めていない。各空港が独自に判断して、路線を決め、運営ができていれば成長の機会がもっと増えていたと語る。

 世間をにぎわしている「霞ヶ関埋蔵金」についても言及する。「総務大臣時代に、財務省のバランスシートを見て“埋蔵金”の存在を追求したことがある。そのとき、最終的には20兆円の余剰資金が出てきた。このほかにも、12月6日時点で22兆円の“埋蔵金”があるとされている。財政赤字を埋めるために消費税率を引き上げるべきとの声もあるが、それは“埋蔵金”のような無駄な資金・資産を売却するなどの財務リストラをした後に議論すべきだと、竹中氏は考えている。

 毎年100万人規模で人口が減っていく時代が近づいている現在、小さな政府を目指すためにも、最大の公務員組織だった郵政を民営化することは必要だったと竹中氏は話す。民営化による規制緩和により、既存不動産を使ってホテル業やオフィス賃貸業などの新規事業に乗り出せるようになる。これも日本ではやっていなかった取り組みの一例だ。「日本経済をさらに強くするためには、外国でやっていることをどんどん取り入れて議論し合える、日本人一人ひとりの姿勢が重要になってくる」。竹中氏はこう語って講演を締めくくった。